幸福の公式
ずっと幸せでいるために必要なことは、次の公式で表すことができる。
H=S+C+V
H(Happiness):永続する幸福のレベル
S(Set range):その人にあらかじめ設定されている幸せの範囲
C(Circumstances):生活環境
V(Voluntary control):自発的にコントロールする要因
永続する幸福のレベル(H)
まず必要なのは、一時的な幸福と永続する幸福とをしっかり区別することである。一時的な幸福とは、チョコレートや映画、マッサージ、花といった、快楽となる感情が一時的に高まる幸福のことで、これはたやすく増やすことができる。
一方、いつまでも長続きする幸福は、一時的にポジティブな感覚を増やすだけでは達成できない。
人間はあらかじめ設定された幸福の範囲を持っている(S)
一時的に気分が高揚しても元に戻ってしまうのは、人間はもともと遺伝によってあらかじめ設定された幸福の範囲を持っているからだとされる。例えば、設定された範囲をはるかに超えた幸運に恵まれると、サーモスタットが幸福のレベルをいつもの状態まで引き下げてしまう。一方、不幸に見舞われた後でも、最終的にはサーモスタットが不幸な境遇から私たちを引き上げようと努力する。
人間のポジティブな感情レベルには、一人ひとりに設定された範囲があり、この範囲は遺伝して受け継ぐ。研究によれば、あらゆる個人的特性の約50%は、遺伝と関わりがある。
幸福レベルを上げようとする場合、障害となるものがもう1つある。すぐにより良いものに慣れてしまうこと、「快楽の弾み車」と呼ばれるものだ。生活が豊かになり、成功を収めても、すぐにそれに慣れてしまい、もっと上を望むようになる。
変数S(遺伝的な要因、快楽の弾み車、各人に設定された範囲)は、幸福レベルが上がらないようにする作用があるが、C(生活環境)やV(自発的にコントロールする要因)には幸福レベルを上げる作用がある。
生活環境から得られる幸せ(C)
生活環境を変えることによるメリットは、幸福度を高めることができる様々な要因が含まれていることである。
・収入
金持ちかどうかということよりも、金銭をどのくらい大切なものと考えるかが自分自身の幸福に影響を及ぼす。実収入のあらゆる水準で何よりも金銭を最優先する人は、概して自分の収入や生活に対する満足度が低い。
・結婚
わずかな影響力しか持たない金銭とは違って、結婚と幸福には強い関連性がある。年齢や収入にかかわらず男女どちらにとっても、結婚は幸せな人生を送るための大きな要因である。だが、幸せでない結婚をしている人は、未婚者や離婚した人よりも幸福レベルは低い。
・年齢
生活への満足度は年齢とともに上がり、快い感情は少し下がるが、不快な感情は変化しない。年をとって変化するのは感情の強さである。「世界のトップにいる気分」と「絶望の底にいる気持ち」の両方は、年齢や経験とともに減ってくる。
・健康
健康は幸福への鍵であり、健康な状態は人間の生活の中で最も重要な分野である。しかし客観的な健康は、ほとんど幸福には結びつかない。重要なのは、いかに健康であるかの主観的な認識であり、不運に見舞われてもそれに適応する能力、例えば重い病気にかかっても健康をポジティブに判断する方法を見つける能力が必要である。
今より幸せな状態を永続させるための要因
①貧しい独裁政権の国でなく、豊かな民主主義の国に住む →強い影響力がある
②結婚する →強い影響力があるが、それほど決定的ではない
③ネガティブな出来事と感情を避ける →ほどほどの影響力
④豊かな社会ネットワークを獲得する →強い影響力があるが、それほど決定的ではない
⑤宗教を信仰する →ほどほどの影響力
⑥財産を築く →ほとんど影響力がない
⑦健康に留意する →留意するのは主観的健康であって客観的健康ではない
⑧できるだけ多くの教育を受ける →影響力はない
⑨気候に恵まれた土地に移住する →影響力はない
いつまでも長続きする幸せをもたらす自発的要因(V)
ポジティブな感情には次の3つがある。
・過去に対するもの(充足感、安堵感、達成感、誇り、平穏)
・現在に対するもの(喜び、絶頂感、落ち着き、熱意、歓喜、快楽、フロー)
・未来に対するもの(楽観、希望、信頼)
これら3つの状況における幸せの感情はそれぞれ異なり、必ずしも緊密な連携があるわけではない。過去が満足のいくもの、誇るべきものだったとしても、現在に落胆し、未来に希望が持てないこともある。
そのため、3つの状況における幸せの感情を正しく理解することが必要だ。自分の生きる方向性、つまり過去をどうとらえ、未来をどう展望し、現在をどう生きるかを見直すことが、自分の感情を肯定的な方向へと導く。そのための方法は次の通り。
①過去をポジティブに変える
・過去が未来を決定してしまうという固定観念を捨てる
・感謝する
・忘却し容認する
②未来を楽観し希望を持つ
・楽観度を高めるために、自分の悲観的な考え方を認識した上で、それに反論する
③快楽と充足感を区別する
充足感を増幅するという問題は「充実した人生とは何か」という崇高な問いかけ以外の何ものでもない。「どうしたら幸福になれるか」ではなく、「充実した人生とは何か」と問うべきである。
充足感とは心理的成長の達成である。充足感は個人の強みや美徳を生かすことで得られる。徳の高い人になるには、知恵と知識、勇気、愛と人間性、正義、節度、精神性と超越性の6つの美徳を、少なくともいくつかは自分の意志で実践する必要がある。あらゆる面で発揮できるこれら6つの美徳は、それぞれが個別のルートを持っている。こうしたルートを形成する要因が「強み」であり、それぞれが持っている。