USJがTDLを超えた日
USJの来場者は2009年度に比べて、年間で600万人増えている。ハリー・ポッターをオープンした2004年度の年間集客は1270万人、2015年10月には過去最高の月間175万人を集客し、USJの3倍の商圏人口に陣取る東京ディズニーランドを超え、単月では集客数日本一のテーマパークになった。かつて、USJの新規事業の成功率は30%程度だった。それが今は97%。マーケティングを重視する企業になって劇的に変わった。
USJの成功の秘密
マーケターは、ビジネスが「伸びる・伸びないの本質」を見極めるのに最も時間と精神力を使わなければならない。そのビジネスを左右する本質である「衝くべき焦点」を「ビジネスドライバー」と呼ぶ。USJの売上のトップラインを伸ばすために衝くべき焦点として着眼したビジネスドライバーは3つあった。
①ターゲット客層の幅
「映画ファンだけのパーク」から映画にこだわらず、アニメやゲームなどの多くのジャンルからブランドを投入し、客層の幅を拡大。
②TVCMの質
消費者がUSJに来場する本質的な理由を強く捉えられていないところに集客を伸ばす余地があった。来場意向調査で従来の数倍もの強さを発揮するTVCMを開発。
③チケット価格の値上げ
大人5800円から5年間で7400円に。先にブランド価値を顕著に高めて、価格弾力性をできるだけ小さくして値上げを断行。
USJはこの3つに着眼し、そこに徹底的に投資と改善を加え続けた。会社として頑張るべき焦点「どこで戦うか」を正しく明確に設定することが、マーケターにとって最重要の使命である。
USJを劇的に変えたたった1つの考え方
USJがV字回復した最大の原動力は、USJが「消費者視点」の会社に変わったことである。「ゲストが本当に喜ぶもの」と「ゲストが喜ぶだろうと作る側が思っているもの」は必ずしも一致しない。なぜなら、作る側は自然状態では消費者感覚から最も遠ざかる運命にあるからである。プロとしての技術を業界で毎日見ていると、どんどん目が慣れてしまって、彼ら自身の「感動の水準」が一般消費者のそれとはどんどん離れていく。多くの消費者にとってわかりやすくて面白いものが、彼らには刺激や品質が足りないものに見えたりする。そしていつしか無意識のうちに自分が良いと思う玄人好みのものを作るようになる。
USJの今の必勝パターンは、まずマーケティングが消費者や市場が望んでいるものを分析し、何を作るべきかを洞察して決める。次にそれをどのように作るのかという段階で、クリエイターやプロデューサーらの作り手が必死にアイデアと技術を駆使して作る。製作段階では、マーケティングは重要なタイミングで当初の戦略の意図通り作られているのか、消費者価値からズレていないかを確認する。
マーケターの仕事は、会社のお金の使い道や従業員たちのあらゆる努力を
消費者にとって意味のある価値につながるようにシフトさせることである。その仕組みがうまく機能するようになれば、出来上がった商品やサービスは、必ず消費者に支持されるものになっていく。
マーケティングの本質
マーケティングの本質とは「売れる仕組みを作ること」である。消費者と商品の接点を制することで売れるようにする。コントロールすべき消費者との接点は3つ。
①消費者の頭の中を制する
自ブランドの「認知率」を高め、選ばれる必然になるような「ブランド・エクイティー」を意図的に構築する。
②店頭(買う場所)を制する
消費者が自ブランドを購入する可能性を最大化させるように「配荷率」「山積率」「価格」などの展開に注意する。
③商品の使用体験を制する
消費者価値を上げる商品開発をマーケティングがリードする。