企業の思い込みが女性人財の浪費をもたらしている
日本の企業で女性人財が育っていないのは、女性の意識に問題があるのか、それとも企業が育てる努力をしていない事から生じているのか。実際、両方の要因が相互に影響しあっており、その因果関係を明らかにする事は容易ではないが、企業の雇用管理制度には、より大きな原因がある。その根拠の1つが、高学歴女性の離職理由である。調査の結果は、結婚や出産よりもキャリアの発展のなさを理由に上げている女性が若い世代になるほど増えているからである。つまり、やりがいが感じられる仕事が与えられない事が高学歴女性の離職や転職につながっているのである。
ところが企業側は、女性の意識(専業主婦願望)に問題があると考えている。そのために、コース別人事管理制度を導入したり、男女の昇格や昇進の時期に男女差を設けたりして、女性を選別してきた。それが逆に女性の離職や短期勤続をもたらしている。つまり、女性の離職による人材育成コストのロスを避けようと男女で昇格の機会に差を設ける事が逆に、女性の離職や管理職候補の減少を予言の自己成就させる形になっている。
専業主婦願望は強いのか
近年、伝統的な価値観を支持する若者が増えており、女性の専業主婦願望が強くなっていると言われる。しかし、それは同じ世代の中で、意識の多様化が起きているからである。また、高学歴女性を対象とした調査では、結婚したら専業主婦になりたいという女性は氷河期世代以降では大きく減少している。
それにもかかわらず、若い女性の間で専業主婦願望が強い事が指摘されるのは、高学歴の女性であっても、結婚や出産で一時離職する事を予測している女性が相変わらず多いからである。それが、女性の専業主婦願望によってもたらされていると類推されている。
学卒時に、結婚したら家庭に入りその後は就業しないと予測している女性は少ないが、結婚や育児で退職する事を想定している女性は高学歴者の中にも多い。また、バリバリ働いて管理職になりたいという女性は少ない。管理職になれば、結婚や子供を持つ事を諦めなければならないと考えているからである。背後には、現在キャリアを積み重ねている女性の多くが、長時間労働をしており、かつ、未婚であるか、晩婚であるか、あるいは子供がいない確率が高いという現実がある。日本の職場では、多くの女性に機会が与えられないだけではなく、機会が与えられている女性は、長時間労働をしたり、結婚や出産を先延ばしにしたり、あるいは結婚していないのである。つまり、女性差別的な雇用慣行が、次の世代の女性の自己投資のインセンティブをそぐというマイナスの効果をもたらしている。
日本的雇用慣行が少子化の原因
日本の職場で女性が結婚し、出産すると、昇進の確率は大きく下がる。補助的な仕事に転換させられたり、今までとは異なる部署に配属されたり、降格されたりする。さらに出産後にキャリアの中断期間が長くなったり、短時間勤務を選択したりすると、給与が低下している。つまり、働く女性が出産するとペナルティが課される仕組みになっている。
このような雇用慣行が維持される中、次第に女性に就業機会が開かれるようになった。また、不況が続き、男性の雇用保障が低下し、給与の上昇が見込めない中で、男女共に若い時にキャリアを蓄積する事の重要性が高まってきている。それが結婚より先にキャリアを蓄積する事を優先する男女を増やし、女性の未婚化や晩婚化・晩産化による少子化がもたらされている。
日本で女性が活躍しづらいのも、少子化の流れを変える事ができないのも、もとはと言えば、男性が一家の稼ぎ手として作られたシステムを21世紀にふさわしい共働きモデルに変える事ができていない事による。