80億人起業家構想 僕がユヌスさんと会社をつくった理由

発刊
2020年12月8日
ページ数
212ページ
読了目安
228分
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ソーシャル・ビジネスで大切なこと
グラミン銀行創設者ムハマド・ユヌス氏と一緒にバングラデシュで合弁会社を立ち上げた著者が、ソーシャル・ビジネスを立ち上げる意義や起業にあたって大切なことを書いた一冊。ビジネスの目的は、社会課題の解決であり、そのために利潤を稼ぐというソーシャル・ビジネスの取り組みが書かれています。

ユヌスさんと会社をつくる

ソーシャル・ビジネスとの出会いのきっかけは、アメリカで働いていた時に読んだムハマド・ユヌスさんの著書『貧困のない世界を創る』だった。たまたま知人の経営者のご縁でユヌスさんの関係者にご紹介頂くことができ、2017年2月にユヌスさんに会えた。自動車部品のリサイクル事業を行うサンパワーのバングラデシュ進出を考えたいので一緒に合弁会社をつくりたいことなどを一生懸命伝えた。
ユヌスさんは元々環境問題への意識が高く、二酸化炭素問題や地球温暖化をソーシャル・ビジネスで何とかしたいという思いがあったようで、サンパワーの自動車部品のリサイクル事業にも興味を持ってくれた。バングラデシュに来て、グラミン担当者と合弁会社設立に向けて、一緒に市場調査をして欲しいと言われた。

 

3ヶ月後、ユヌスさんが任命したグラミン社側の担当チームが待っていて、丸3日かけて共同で市場調査を実施した。ソーシャル・ビジネスは、単に事業を海外の途上国で展開して利益を上げるということではなく、現地の当該市場の直面している社会課題の把握と抽出から始まる。これが現地グラミンチームとの共同調査の目的になる。

 

共同市場調査の結果は、日本の中古車がどんどん入ってくるけれど、事故を起こした時に修理する場所がないということ。仮に修理する場所があっても、修理技術に乏しい上に交換部品の知識がなく、修理に来たお客さんは自分の車が修理完了されるまで、その場でずっと待っている状態だった。
色々な社会課題はあるにしても、自動車リサイクル事業の周辺分野においては、これが一番現地の直面している課題だという点でグラミン側の共同市場調査チームと一致し、日本式の技術を入れた自動車整備工場をつくろうという案に行き着いた。そして、日本から直接、安心安全な自動車中古部品を現地で輸入販売できるよう、ソーシャル・ビジネスを構築することも合意認識された。

 

ソーシャル・ビジネスで大切なこと

「途上国」におけるソーシャル・ビジネスにおいては、「人の循環」という視点は極めて大切である。途上国は失業率が極めて高いので、「就労機会」を提供するということに加えて、就労者の経済性を高めるには、事業を通じて起業機会を提供するという「人の循環の仕組み」を、あらかじめソーシャル・ビジネスプランに入れ込んでおくことが大事になる。
マクロ的には就労機会の提供だけでは、失業者の母数が多過ぎて失業率の解消に追いつかない。起業支援をして、その事業が成長していけば、結果として就労者も増える。

合弁会社とのフランチャイズで幹部候補生たちが少しずつ独立していき、自分の村やダッカ以外の第二、第三の都市にこういった日本式の修理工場をつくっていく。そこで日本から仕入れた安全な部品をつけて修理すれば、また雇用が生まれる。そういった循環を目指した。

 

ソーシャル・ビジネスの目的は、社会が抱えている問題の解決なので、必ずしも日本でやっている本業がそのまま生きるわけではない。本業の展開ではなく社会問題を解決することが大切なので、どうしても自社の経験だけでは不足する部分が出てくる。合弁会社設立にあたっては、双方に修理技術の経験がないため、途中でビジネスの計画が頓挫したが、何千台もあるグラミンの社有車の修理を請け負っている現地の修理工場が、合弁に参画すると名乗り出てくれた。

 

ビジネスは何でもそうだが、とりわけ海外ビジネスや海外でのソーシャル・ビジネスに取り組むと、日本国内でのビジネスでは経験しないような障壁や課題が出てくる。その障壁や課題を乗り越える原動力が「理念」である。

そして、ソーシャル・ビジネスを起業する場合、まずは経済性の確立は必須だ。収支が立たないと当然事業の継続はできないし、社会課題解決のための活動もできないからだ。その一方で、収支がしっかりしてくると、グラミン・ソーシャル・ビジネス・カンパニーでは、その利益の使途を厳しくユヌスさんに問われる。利益は目的ではなく、社会課題解決のための手段であるから、利益をどう社会のために使うかについて、しっかり説明しなければならない。

参考文献・紹介書籍