ネットフリックスの創業
リード・ヘイスティングが『アポロ13』で延滞料金を払わされ、ネットフリックスのビジネスモデルを閃いたと言う物語はフィクションだ。
ネットフリックス創業前、ヘイスティングスとマーク・ランドルフは一緒に車に乗り、ピュア・エイトリアに通勤していた。1997年、通勤ドライブ中に新事業のアイデアを巡って色々と語り合った。ピュア・エイトリアでマーケティング責任者だったランドルフにとって、ダイレクトメール、カタログ、特売案内、割引クーポン券などは関心の高いテーマだった。インターネットであれば、消費者がどんな売り文句に反応するのかを見極め、それに応じてオンライン店舗を魅力的に修正していくという作業が瞬時にできる。
どんな事業になるのか具体的に思い描いていたわけではなかった。はっきりしていたのは、インターネット上で何かを売ると言うことだけだ。「書籍以外の何かを扱うアマゾン・ドットコム。それが何かはわからなかった。
ビジネスモデルの差別化
ある日、2人はウェブサイト上のオンライン店舗経由で映画レンタルサービスができるのではないかとの仮説を立てた。そこで、ビデオの新規格であるDVDを使って実験することにした。普通郵便であればダイレクトメールと同じように荒っぽい扱いをされるので、実際に全米各地に郵送しても大丈夫かどうか確認する必要があった。封筒の表にヘイスティングスの自宅住所を書き込み、サンタクルーズ中央郵便局まで歩き、普通郵便料金を払って投函。
「ちゃんと届いたよ、大丈夫だ」。その瞬間に思ったのは、これならうまくいくかもだった。
もしビデオレンタルのオンライン事業を始めるなら、ビジネスモデルの差別化は不可欠と考えた。対ブロックバスター戦略を練る日々だった。長年使い慣れた実店舗を放棄し、仮想空間にしか存在しない店舗へブロックバスターの顧客を誘導するにはどうしたらいいのか?
仮想空間モデルでは、顧客が映画を手にするまでに1週間かかると予想された。ただ、アマゾンを精査すると、DVD映画の品揃えでは世界最大になれるというセールスポイントも見つかった。
鍵を握るのはウェブサイトのインターフェイスだった。ビデオレンタル店のレイアウトとカタログ商品写真・説明がうまく融合し、1週間待つだけの価値はあると顧客に思わせなければならない。注文プロセスの簡易さも重要ポイントだ。実店舗で映画を選び、鑑賞後に返却するプロセスよりも複雑であってはならない。
ランドルフは消費者のハートを揺さぶる必要性もよく認識していた。消費者に対してパーソナルな空間を演出しなければならない。ドアを開けて入店すると、そこにはあたかも自分専用に設計されたオンラインビデオ店が用意されていると感じさせるのだ。
ローンチ
新会社はディスク1枚当たり4ドル(他送料2ドル)で、1枚追加するごとに3ドル上乗せするレンタル料金を採用し、実店舗のVHSビデオレンタルと同じにする。レンタル期間は7日間にし、返却時の郵便料金を会社負担にする。さらには、レンタルしたDVDを購入したい利用者に対しては、小売価格の3割引で販売する。実店舗が真似できない最大の強みは品揃えだ。新会社は発売済みDVD映画のほぼ100%を在庫に持てる。
1998年、ウェブサイトのローンチと顧客開拓の準備に入った。マーケットテストの対象として理想的なのは、DVDプレーヤーのオーナーだ。インフルエンサーに影響を与えようとして、積極的にオンラインコミュニティーに加わり、インフルエンサーに連絡した。
最初はしょぼいウェブサイトだったが、ローンチすると大量の注文が舞い込んできた。