ヒューマン・ネットワーク 人づきあいの経済学

発刊
2020年11月19日
ページ数
344ページ
読了目安
591分
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ネットワークが及ぼす社会への影響の解説書
情報や疫病の拡散など、様々な問題に影響を及ぼす「ネットワーク」の構造や仕組みを解説している一冊。人のネットワークが及ぼす影響力がどのような構造で成り立っているのかや、ネットワークが及ぼす様々な社会問題について書かれています。

ネットワークのパワーと影響力

どれだけ大勢の人を動かせるかはパワーと影響力に直結する。この種の影響範囲(リーチ)を測るのにネットワークは便利だ。測り方としてはまず、その人の友達、同僚など知り合いの人数を数える。今の時代なら、ソーシャルメディアのフォロワー数は、集団での認知や社会通念をある方向に押す上で何らかの力を持ちうる。

但し、直接的な友達やつながりを多く持つことは、影響力の持ち方としては1つの形態に過ぎない。一人が持てる友達や知り合いの数は限られるが、少数の友達や知り合いが強い影響力を持っていれば、その人自身も影響力を持つことができる。この種の間接的なリーチは権力の存在する場所でよく見られ、ネットワークを当てはめてみることで、その影響力がくっきり浮かび上がる。影響力のある友達を通じて影響力を得ることには循環と繰り返しの性質があり、ネットワークの文脈で考えるとその影響力の広がりがすっきりとわかりやすい。

 

影響力を測定したからといって話はそこで終わりではない。人が重要な存在になりうる方法は他にもあり、特にネットワークを通すと明白になるのが、連結装置と調整装置であることだ。私たちは、互いに直接には相手を知らない人同士の間を取り持ち、彼らの行動を調整するユニークな立ち位置に立つことによって、利益を分配したり、自分のパワーを強めたりすることができる。

 

ネットワークでの人の影響力とパワーの測り方

人気度(中心性)を測る方法は様々であり、何を予測したいのかによって高い効果を発揮する方法が変わってくる。

 

①人気者度:友達の人数によるパワー(次数中心性)

多くの友達、知人、フォロワーがいるか。ソーシャルメディアで何百万人というフォロワーにメッセージを届けられる人は、多くの人の考えや知識に影響を及ぼす潜在能力を持つことになる。人気のある個人は突出して目立つので、他の人の流行や規範の捉え方を動かすことができる。

 

②接続:間接的な友達によるパワー(固有ベクトル中心性)

「多くの接続を持つ」人と接続しているか。多くの友達を持つことには意味があるが、数は少なくても「いいポジションにいる」友達を持つことはそれと同じかそれ以上に重要である。

 

③到達範囲:噂を拡散するパワー(拡散中心性)

情報を広めるのにも、情報を最初にキャッチするのにも適したポジションにいるか。ネットワーク内でなるべく少ないジャンプで多くの人にリーチできるか。

 

④仲介と婚姻:仲介者としてのパワー(媒介中心性)

仲介者あるいは斡旋者として力があるか。誰かと誰かを連携させられるポジションにいるか。誰かと誰かが互いにリーチするためにはこの人を通る必要があるか。この人がいなければ断絶していたある集団と別の集団を結びつけることのできる重要な橋渡し役か。

 

人気者度は、友達や知人の数を数えるだけの局所的な尺度であり、他の3つはネットワークのより広い範囲で情報の動きを見る幅広い尺度である。どの中心性で測るのがそのネットワークにとって適切か、また、どのように人がパワーを行使するかは、文脈によって異なる。中心性という考え方は、情報や病気などの伝播、不平等や分極化の広がりなど、私たちの日常にとっても重要な役割を果たす。

 

拡散と伝達に影響を及ぼすもの

以下のネットワークの構造は拡散と伝達に大きな影響を及ぼす。

 

①巨大コンポーネント

コンポーネントとは、各ノードが1つ以上の接続を介して相互にリーチしあえる、ネットワークのかたまりを指す。ネットワークの世界でも、孤立したノードや小さなコンポーネントが集まって、多数のノードからなる巨大コンポーネントができたり、すべてのノードがリンクを通じて相互にリーチできるネットワークが形成されたりする。巨大コンポーネントがあるかどうかが、伝染が大きく広がるかどうかの鍵を握る。

 

②相転移と基本再生産数

ネットワーク内のリンクの比率が増えることは、温度が上がって氷が水に、そして蒸気に変わるのに似ている。ネットワークの相転移で着目すべきなのは、急激かつ無秩序に起こる可能性のあることだ。ネットワークのリンクの多さがわずかに変化しただけで、コンポーネントの構造が一気に変わる可能性がある。

 

ネットワークの相転移は、疾病の伝染と密接にかかわる。伝染病が広がっていくネットワークには「基本再生産数」と呼ばれる重大な数字がある。感染した典型的な個人が新たに何人の人を感染させるかを示す数字だ。基本再生産数が1より大きいと疾病は広がり、1より小さいと疾病は収束に向かう。

基本再生産数の1という閾値は、ネットワークに巨大コンポーネントが存在する状態への相転移に関連する。疾病の基本再生産数は、個人から個人への伝染しやすさと、個人が平均で何人と接触するかによって異なる。接触があったからといっても必ず伝染するとは限らないので、基本再生産数はネットワークに属する人の友達の数を平均した数よりも小さいのが普通だ。さらに再生産数は疾病の種類や場所によっても変わる。

 

③外部性

外部性とは、ある人の振る舞いが他者の幸福に影響することを指す。人との交流が面白いのも、市場があらゆる問題を整然と解決できないのも、外部性と関係する。疾病の流行を絶つ上で最大の難関は、外部性が地球規模で作用することだ。ある疾病が地域流行病である国が1カ国でもあれば、その疾病が生き続けるのに充分であり、何かの弾みで他国でも復活し流行する事態はありうる。