物語は利益をもたらす
アメリカでは近年、マーケティング、人事、経営企画など様々な分野で戦略的に「ストーリー」を取り入れる企業が多くなってきた。スタンフォード大学経営大学院でも「ビジネスにおけるストーリーの力」という授業がここ数年、看板授業として君臨している。「ストーリー」が注目されているのは、それが企業に利益をもたらすからだ。効用は3つ。
・ストーリーは製品や自社のブランドを売るのに威力を発揮する
・イノベーションの指針となる
・社員のやる気を刺激する
企業の看板ストーリーは、ブランドを広め、企業イメージを高め、顧客との関係を築き、戦略を実行する原動力となる。このストーリーには、3つの特徴がある。
①ストーリーそのものが面白いこと、示唆に富んでいること
②人々が素直に信じることができる話であること
③人々の心に響き、巻き込むことができること
現代の消費者はSNSに投稿して、どれだけ「いいね」がもらえるかを気にしてモノを購入する傾向にあるから、売り手もそういう承認欲求を満たす製品やサービスを提供する必要がでてきている。「この製品はあなたの価値観にぴったり合った製品ですよ」と訴求するのに大きな力を発揮するのが「ストーリー」である。消費者が求めているのは、価格の安さや機能といった要素だけでなく、「この商品は自分の価値観に合っているか」という点だ。そもそもストーリーが人間に影響を与えるのは、3つの特性があるからだ。
①記憶に残ること
②データや数字よりも強いインパクトを与えること
③聞く人の心に訴求できること
人間の脳には限界がある
今、製品開発の分野で1つのキーワードとなっているのが「シンプル化」だ。これはまさにモノが溢れ、次々と新製品が売り出されている世の中に対する反動ともいえる動きだ。
様々な機能がついたオールラウンドの製品というのは、世の中にたくさんある。その中で他の製品と差別化するには「機能などを足していく」のではなく、「そぎ落とす」ことが大切である。機能が複雑すぎる製品は嫌だ、という人のためにも、使いやすくてシンプルな製品を提供することである。
私たちがシンプルな製品を求めるのは、私たちのワーキングメモリ(作動記憶)には限界があるからである。人が一度に覚えられる数字や単語の数は『7±2』(5〜9個)だと言われている。現在では「4±1」を提唱する学者もいる。人間の情報処理能力には限界があり、テクノロジーが進化してもこれは変わらない。
挑戦を阻害するものは何か
「優良企業が持続的イノベーションと、効率化のためのイノベーションをどんどん突き詰めていった結果、破壊的イノベーションに成功した企業にあっという間に負けてしまう」という現象が、今、世界中で見られる。企業は大きくなると、どうしてもリスクをとらなくなる。その結果、リスクの高い破壊的イノベーションにあまり投資しなくなる。このイノベーションのジレンマを解決する方法は3つある。
①社内に新たな組織(新規事業開発部など)をつくる
②社外に独立した組織(子会社など)をつくる
③他の会社を買収する
持続的イノベーションや効率化のためのイノベーションを起こすことを得意とする既存の組織で、破壊的イノベーションを新たに起こすのは難しい。だから、とにかく別組織をつくって、そこでイノベーションを起こすのだ。
人間は、現状を維持する習性とリスクを回避する習性の2つを持っている。この両方が組み合わさって、イノベーションに抵抗する行動をとる。そこで革新的な企業では「新しいことに挑戦しても損をしない」ということを信じられる社風づくりが行われている。