自動車の大変革がやってくる
米国では、今日2億1200万人の自動車免許保有者が2億5200万台の小型車を所有し、1年間に6800億リットルの燃料を消費しながら5.1兆km移動している。しかし自家用車は約95%の時間、稼働していない。そして、稼働していない95%の時間、車を保管する駐車場を必要としている。
しかし、過去130年で初めて、人類は自動車による移動形態の大変革の真っ只中にいる。前世紀は「ガソリン駆動車、手動運転、個人所有」というモデルが支配してきた。それが今、「電気自動車、自動運転、従量制/定額制のモビリティ・サービス」というモデルに移行しようとしている。もうじき、私たちは車の所有や運転をしなくなる。代わりに、安全で便利な自動運転車で目的地まで運んでもらうサービスを利用するようになる。車はアプリから簡単に呼び出せる。到着した車には、ハンドルもアクセルペダルもブレーキペダルもない。移動の大半は、大人2人が快適に座れるように設計された電気自動車で行われ、かかる交通費は従来の数分の1だ。
破壊的イノベーション
2018年、グーグルの自動運転車プロジェクト「ウェイモ」は、2009年に初めてチームを結集した時に描いていた夢、自動運転、シェアリング式の電気自動車の展開を実現した。マイアミやサンフランシスコ、ニューヨークなどの各地でこれらの車両をテストしている大手企業の数は、今では数十社に増えた。私たちは今、自動車が提供する自由の意味を問い直し、多くの人々に低コストで優れたモビリティを保証する、新たなモビリティ時代に突入しようとしている。
結果として、自動車事故は実質的に存在しなくなり、交通事故による死亡者数も激減する。長距離トラックの輸送コストは半減し、大幅な生産性向上とeコマースの成長の機会がもたらされる。米国人は全体として運転に年間約720億時間を費やしているが、この時間を解放できる。
ドライバーレス・タクシーは個人所有のガソリン車よりはるかに稼働率が高くなる。その結果、従来の車よりも大幅に早く走行距離が蓄積されていく。破壊的イノベーション後の車はわずか4〜5年で50万km弱を走行する。そして、現在使用されている車両の約半分で同じ移動をまかなえるようになる。これらを総合的に考えると、自動車製造業は縮小することになるだろう。
自動車メーカーのイノベーションのジレンマ
大企業が自ら破壊的イノベーションを起こすのは難しい。グーグルが幸運だったのは、自動車業界で製品をつくってこなかったことだ。だから既存の製品ポートフォリオにどう位置付けるかを悩むことなく、全く新しい製品の開発に集中できた。
自動車メーカーが、自動運転への参入が遅れた理由の1つが、製造しているのがハードウェアだったことである。自動車メーカーはハンドルやヘッドライト、ドアハンドルを設計し、様々な地形・気象条件で何十万マイルも走る自動車を組み立てるのが得意だ。だが自動運転ではソフトウェアとマッピングが鍵を握っていて、大量のプログラムを書く必要があるが、これは自動車メーカーの強みではない。
ハンドルやブレーキを車からなくした方が良いと思えるほどの完全な自動運転を実現するには、高精度の地図が必要だ。車が走行するあらゆる道路を、高解像度で3Dスキャンしなければならない。これは自動運転開発の初期段階では、グーグル以外の企業や研究機関には不可能だと思われていた。
自動車産業が自動運転への参入に遅れたのは、デジタルテクノロジーへの理解やコンピューターやビッグデータを活用する能力が不足していたからでもあった。最先端の通信技術も理解していなかったため、公道を走る車にこの技術を応用しようともしなかった。
グーグルは自動運転車の公道テストを7年間も無事故で実施してきた。既に自動運転で100万マイルの走行を達成し、アリゾナ州フェニックスではクライスラー・パシフィカにセーフティー・ドライバーが同乗しない完全な無人運転でサービスを提供している。ウェイモは近い将来、車両のサイズやタイプを目的に合わせて選べるモビリティ・サービスを1日あたり100万回提供することを計画している。