何に共感してもらいたいかを規定せよ
「たくさんのお客様に来て頂きたい」「多くの人に利用して欲しい」という発想は理解できるが、むやみに引き寄せればいいというものではない。
入るべき店を間違うことは、顧客にとっても店にとっても不幸である。例えば、辛い料理しか用意がない店に、辛いものが苦手な人が入ったとすると、ここでの食事は無理だと断念する。店としてもクレームにならないよう丁寧に接する必要があり、その時間や労力はもったいない。
共感してくれる人だけを引き寄せ、そうではない人を遠ざけるために最も大切なことは「何に共感してもらいたいのか」をきちんと規定することである。共感とは何もないところから自然発生的に湧いてくる感情ではなく、提示されているものに対して生まれる感情である。ポリシーや会社の理念、店のコンセプトといったものが提示されなければ、共感は生まれようがない。
踏み絵が共感を呼ぶ
ポリシーやコンセプトを提示した場合、想定される反応は3つある。
①共感
強く心が揺さぶられた人ほど、熱烈なファンになってくれる。
②無関心
特に良いとも悪いとも思わない。何を発信しても届かない。
③アンチ
「自分は苦手」「これは利用したくない」というように、受け入れがたいという感情を抱く。
このアンチをあぶりだすことがビジネスでは重要である。最初に特徴を明示することは、面倒なトラブルを避けることにつながる。これは「踏み絵」である。
「当社はこういうポリシーです」「この商品はこういう特性があります」といったことを知ってもらい、それでも良いと思った人は買い、嫌だと思った人には去ってもらう。エッジの効いたもの、ターゲットを絞り込んだものなど、個性が際立った踏み絵は、熱狂的なファンとアンチを同時に生み出す。そういう踏み絵だからこそ、共感してくれる人だけを引き寄せ、そうではない人を遠ざけることができる。
踏み絵の作り方
①視覚で分けるビジュアルを工夫すれば、取り込みたい層を引き寄せ、そうではない層を遠ざけることができる。
ex.『蒙古タンメン中本』『セブンイレブン 金のシリーズ』『レクサス』
②敵をつくる
自社のこだわりや企業姿勢を発信するコピーは、その考え方に共感する人を強く引き寄せる磁石であり、それ以外の人を遠ざけるバリアとなる。
ex.『遊べる本屋』(ヴィレッジヴァンガード)『初めての方にはお売りできません』(再春館製薬所)
③ターゲットで分ける
ターゲットは年齢等の属性ではなく、困っている中身でとらえる。不満や、不便を感じている人が思わず「それ、私のことだ」と言いたくなるネーミングが理想である。
ex.『ガチガチ専門店』『ヘルシア緑茶』『城南コベッツ』『ほろよい』
④地名で分ける
地名の豊かなイメージを取り入れ、その地を愛する人たちを強烈に惹きつける。
ex.『とど』(大分郷土料理店)『湖南菜館』(湖南料理店)『ヨーロピアン珈琲』『美ら海水族館』
⑤キャッチフレーズで分ける
興味関心を引くキャッチフレーズを作るには「サービスの特徴を伝える」「新しい需要を掘り起こす」という2つの方法がある。
ex.『理系ミステリー』(森博嗣)『すごい煮干ラーメン専門店』(凪)『人の死なないミステリー』(万能鑑定士Q)『食べるラー油』
⑥趣味嗜好で分ける
その分野が好きな人は、マニア心を満たす場を探しているし、そういう場に出合えたら引き寄せられる。
ex.『ペッツカールトン』(ペットホテル)『ミリの駅』(サバゲー専門店)『ガリバーシューズ』(大型サイズ靴店)