やさしいがつづかない

発刊
2026年7月2日
ページ数
240ページ
読了目安
232分
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推薦者

やさしいの本質
現代社会において「やさしい」を続けること自体が難しいものであるとし、「やさしい」という行為の本質を解剖している一冊。

哲学研究者である著者が、身近な人に対して、なぜやさしいを続けることが難しいのか、やさしさとは何かが紹介されています。人にやさしくするためには何が必要なのかといった根本的なことを理解することができます。

やさしいは必ずしも良いとは限らない

私たちが生きる現代社会には、やさしいことは良いことで、やさしくないことは悪だという倫理観が根付いている。しかし、やさしいことは、いつも良いこととは言えない。やさしいは誰かに悪用されてしまう可能性があるからである。

 

私たちは「フリーライダー=タダ乗りする人」を嫌う。これは古くから受け継がれてきた人間の本性の1つである。この「不正義の感覚」が、やさしいが続かないことの理由の1つでもある。不正を許さないとする感覚は、私たちの生命と暮らし、財産を守のに必要である。だから、それらが脅かされる時には、やさしくならないことにも十分な理由がある。

 

やさしいとは何か

私たちは、本当は相手をコントロールしている方が楽だし、効率もいいので、いつでもそうしたい誘惑にかられる。相手のコントロール権を奪い、自分が望むように相手の行動を変えたい。しかし、これはやさしいとは正反対の振る舞いになる可能性が高い。

やさしいというのは、自分のコントロールの権利を手放し、それを相手に委ねる行為である。やさしいというのは、気持ちや感情の問題ではない。なぜなら、やさしさはいつでも行動と結びついている必要があるからである。やさしくなれない=やさしさを行動として示せないということに他ならない。

 

現代社会では、セルフコントロール(自己管理能力)ということが重視されている。この能力が及ぶ範囲が大きいほど、その人の自信は高まり、メンタルヘルスも向上することになる。セルフコントロールの増大は私たちの自由の拡張につながっており、その範囲を増大させることが正しいと信じられている。

一方で「やさしさ」とは自分のコントロール権を手放すことであり、セルフコントロールの範囲を減少させてしまう。他人を思いやり、他人の顔色をうかがってばかりで自分のやりたいことができないと、人は身もやつれるほど辛くなる。それは自分の生活におけるコントロールできる範囲が奪われてしまうからである。

つまり、「やさしいが続かない」のは、社会そのものがやさしさを困難にする個人のセルフコントロール増大(行き過ぎた個人主義)を推奨していることが理由に挙げられる。

 

自分のコントロールを相手に「委ねる」ということは、委ねることが相手への押し付けになっていないことが大前提であり、さらにその上で、委ねたことで何が起きても、コントロールを手放した自分が最後までその結果を引き受ける必要があることである。

つまり、やさしいというのは、次の2つの条件を兼ね備える必要がある。

  1. コントロール権を手放し、相手に委ねること
  2. その結果、起こることの責任は引き受けること

やさしいは、自分の身を切る勇気のいる行為なのである。だから、この2つを満たすやさしいが続くこと自体が、ちょっとした奇跡のようなものである。

 

やさしいの土壌を耕す

「やさしいが続かない」ことの多くは、知り合いや身近な人、関係性が続く人たちの間で起こる。相手が身近であればあるほど、私たちは相手をコントロールしてしまいたくなる。私たちが、やさしいを続けるには、このコントロールの欲望に向き合う必要がある。

 

私たちの普段の人間関係は、4つのモードで営まれている。

  1. 共同的分かち合い:自分の利益や取り分などを考えずにすべてを共有し合う関係
  2. 権威ランク付け:両親と子供、教員と生徒、上司と部下など、上下の権力勾配が存在し、従属するような関係
  3. 平等マッチング:友人間で成立する公平で平等な関係
  4. 市場価値付け:関わる相手の社会・経済的な価値に重きが置かれる関係

 

この中で、相手をコントロールせず、貸し借りや義務のないやさしいを成立させる人間関係は「共同的分かち合い」だけである。ここに異なる人間関係のモードが入り込んでくるとうまくいかなくなってしまう。

 

では、やさしいを続けるにはどうすればいいのか。そのためには自分の中にある「やさしいの芽」を育むための環境に目を向けることである。環境は次の2つからなる。

①周囲の人々

周囲にやさしくない人ばかりがいれば、自分もやさしいが続かないのも当然である。自分のコントロール権が、持続的に奪われ続けてきた場合は、その相手とコミュニケーションを取りながら、自分のコントロール権を取り戻すための対話や交渉が必要になる。

 

②余裕の力の土壌

自分は誰かをコントロールしたいとは思っていなくても、疲れていたり、忙しかったり、不安だったりと心に余裕がないと、他人をコントロールしたくなってしまう。心身の疲労や感情の昂りは、視野を狭くさせ、その瞬間の自分のことだけを第一に考えるようにさせる。

経済面、時間面、健康面という、やさしいが発揮されるための重要な土壌を耕し、日頃からケアしておくことで、誰かをコントロールしたくなる手綱を緩められる。