AIは道具を超えたパートナーに
AIは生活者にとっての「メディア」、生活者1人1人と共創・共感する「パートナーメディア」とでも言える存在になっている。AIなら相手に気を遣うことなく感情を吐き出せる、という点にポイントがあるようだ。AIの登場以前、愚痴は親しい友人や家族に聞いてもらうもの、というイメージがあった。しかし、最近はAIに愚痴を聞いてもらうようになったという人も少なくない。AIへの気持ちの発散が、生活者の感情面を支えているのだ。
生活にAIを取り入れている「AI生活者」から見えてきたことは、次の3つである。
- AIは、わからないことを聞く相手になっている
- AIは、できないことを相談しながら一緒に進める相手にもなっている
- AIは、安心して感情を発散できる存在にもなってきている
このようにAIは単なる情報獲得や業務の効率化を超えて、生活者の感情領域をも支え始めている。
こうした変化について、海外と比較をしてみると、上海の結果がかなり際立っている。信頼する情報源も家電の操作も犯罪抑止も「AIの方がいい」と答えた人が過半数に達している。また、仕事においても、AIと脳の融合でも、ペットや友人でも「AIの方が良い」「AIともできる/なれる」という人が半数を超えるなど、上海は他の都市よりも深く広くAIを受け入れている。
上海では東京よりもAIがさらに生活へ深く溶け込んでおり、ただ情報を得たり整理しいてもらったりするだけでなく、日常生活の中で対話を重ねて、行動や感情を動かす存在になり、情緒面では、単なる愚痴の吐き出し先ではなく、信頼や愛着関係を継続的に築いている。もはやAIは、道具という領域を超えて、生きる上での「パートナー」になっている。
AIと生活者の関係性
生活者とAIとの関係性は、2つの軸で整理される。
- 情報志向×単発的:検索AI(必要な情報を処理させて疑問を解消する)
- コミュニケーション志向×単発的:発散AI(人に言えないモヤモヤを聞かせてストレスを解消する)
- 情報志向×継続的:相談AI(困り事を相談しながら一緒に問題を解決していく)
- コミュニケーション志向×継続的:愛着AI(人格のあるAIと対話をしながら毎日を安定・充実させていく)
4つの関係性の中で、特に注目されるのは「愛着AI」だ。中国では「豆包(Doubao)」という、月間1億人以上が使っているアプリがある。ユーザーが生成した友人や恋人のAIキャラクターが何千も登録されており、幅広く支持されている。愛着AIは、24時間365日寄り添ってくれる。
AIは情報伝達と感情コミュニケーションという2つの機能を持ち始めている。個人に応じて情報を生成して伝達しつつ、感情や意図を受け入れてコミュニケーションまでできる。いわばAIは、第3のメディアとも言える存在になりつつある。
上海で見られたような利用方法は、日本のみならず他の国や地域でも広がっていく可能性は高い。
私たちの未来予測
AIと共に生きる未来において、私たちが主体的に選び取り、自らの手で実践していくべき未来への見立ては、次の通りである。
①AIで、私たちは「余白」を手にする
これからのAIは、ロボットやスマートグラスなど「現実の物理世界で私たちを助けてくれる存在」として、過酷な労働や日常の家事、言語の翻訳や記憶の補助まで担い、様々な負担を軽減してくれるようになる。そこで生まれた「余白」時間で、私たちは画面の中で起きたことと同じように、現実世界でも自分たちの可能性をさらに拡げることができる。
②AIは私たちに「勇気」をくれる仲間となる
「やりたい」という気持ちを持つ私たちにとって、AIは一歩を踏み出す「勇気」をくれ、人生の可能性を拡げてくれる頼もしい仲間となる。
③AIは「意欲」を奪う厄介な仲間にもなる
人間は自ら動き、試行錯誤という「手間」をかけるからこそ、そこに達成感や価値を見出す生き物だ。AIは人を安易に依存させ、時間と能力をただ消費させる存在になりかねず、注意しなければならない。
④正しく恐れ、AIと共に外へ出ることが幸せにつながる
AIへの理解が浅いと、AIにいいように転がされてしまう。人間は、本質的に弱い存在で、易きに流されやすい。AIが与えてくれる心地よさにすぐに飛びつき、繰り返す快楽の中で受動的に過ごしてしまう。これからは、自分自身の「外」を探る思考と行動が、幸せにつながる。
⑤主体性を後押しするAIが人もビジネスも豊かにする
AIを使った様々なプロダクトも、ただ面倒をなくし人々を心地よさに閉じ込めるだけのものは、同質、コモディティ化する可能性が高い。人間の主体性を刺激して人生の豊かさを拡張する体験をつくることこそ「価値」であり、人々はそこにより多くのお金を払っても良いというブランド性を見出す。