資本主義を問い直す
1980年代以降、資本主義の新自由主義化と金融資本主義化が生じ、金融危機の頻発、格差再拡大の持続化、グローバルな地球環境問題の深刻化など、多くの問題群に直面している。そのため資本主義は、学問としての経済学の出口でもあり、経済学は資本主義という大きな問題に再び挑むことが要請されている。
①岩井克人『二十一世紀の資本主義論』
20世紀の最後の10年で生じたソ連崩壊という歴史的事象は、21世紀を象徴してきた「資本主義対社会主義」という対立の世界の終焉を告げ、世界はグローバル市場経済という原理(アダム・スミスの時代)に全面的に支配・統合される時代の幕開けだと、人々は確認した。
しかし、「アダム・スミスの時代」とは、「見えざる手」がその力をますます失ってしまう時代であるというパラドックスがあり、二十一世紀のグローバル市場経済は危険に満ちた世界になる。この危機の真因が、グローバル市場経済に内在する「投機=危機」の観点から解き明かされる。
②西部忠『資本主義はどこへ向かうのか』
人類の総体的危機として立ち現れているグローバリゼーションは、市場の空間的伸長を指す「外延的拡大」、我々の身体・生命や自然そのもの、価値や倫理という内面の領域の隅々にも利潤原理が浸食していく「内包的深化」の2つの側面をあわせ持つ。後者こそ、収益増殖を目指す「自由投資主義」の普遍化と「個」なるものへの究極的還元・解体を顕著に促進し、コミュニティの存立基盤や言語的コミュニケーション能力の劣化に起結している。
それゆえ、信頼や互酬、協同・共同などの価値を復権し、「資本主義を超えるオルタナティブ」を実現しうるコミュニティ通貨の潜勢力を見極めることが重要課題となる。
③伊藤誠『資本主義の限界とオルタナティブ』
資本主義的人口問題は自然法則ではなく、歴史的社会的諸関連から考察されなければならない。日本では少子高齢化が加速し、個人主義的IT「合理化」が新自由主義路線のもとで深化し、働く世代の雇用形態の弾力性と不安定性は、非正規雇用や晩婚化・シングルスの顕著な増大、人々の生活・将来不安を長期的に持続させている。そうした事態は、共同体的人間関係への過度な分解作用として、「資本主義にとって本来的に矛盾の根源をなす労働力商品化の無理の現代的あらわれ」ともみなせる。
新自由主義的資本主義は金融面での規制を解き放ち、サブプライムローンから世界恐慌への波及・転化において、新たなグローバル金融化資本主義として、その特徴をなしていた。住宅ローンを中心とする消費者信用の大規模な膨張は、労働力商品化の矛盾と重なり合い「労働力の金融化による略奪的搾取と無理」を現代的に露呈するものでもある。
投機的バブルが絶えず連鎖反復しうる資本主義での貨幣・金融の不安定性、新自由主義後の資産と所得の格差再拡大の趨勢と動態を実証したトマ・ピケティ『21世紀の資本』もふまえ、ベーシックインカムの構想、地域通貨を媒介とする相互扶助型コミュニティの再生、21世紀型社会主義モデルなどの多元的なオルタナティブに着眼されている。
④水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』
近代資本主義システムは「中心/周辺」から成り立っている。そして「周辺」からの資本の蒐集を通じて、「中心」の利潤率を高めながら資本の自己増殖を推進していく。しかし、1980年代の新自由主義の時代以降、その仕組みが「地理的・物的空間」から「電子・金融空間」へと空間上のフロンティアを拡張しながらも、利潤獲得それ自体を行うことができなくなっている。これは資本主義システムを30年以上に及んで延命させることになった。
誕生時から過剰利潤を求めた資本主義は、欠陥のある仕組みだったとそろそろ認めるほうがいいのではないか。近代資本主義「理念」の転換が要請されており、その先に新たな世界史的構造が待ち構えている。
⑤斎藤幸平『人新世の「資本論」』
ソ連崩壊後の支配的な論調は、マルクスと社会主義は既に過去の遺物であり、「資本主義」以外に人類が進むべき道はないという強固な通念であった。しかし、気候変動危機は、グローバル・サウスにおいてこそ、資本主義の内在する矛盾という形で凝縮している。
「経済成長」と「持続可能性」という軸で捉え直すと、前者を肯定し後者を否定した「生産力至上主義」の立場のマルクスは、その後に両者を肯定する「エコ社会主義」に移行し、最終的には前者を否定し後者を肯定する「脱コミュニズム」の思想に到達したという。理論的に大きな転換を遂げたマルクスが最終的に到達した地点の「脱成長コミュニズム」こそが、人新世の時代における気候変動危機を克服し、資本主義を超えた新たなシステムと説く。