シニア市場の拡大
仕事を引退した70代以降のシニア世代と現役世代とに挟まれながら、新しい生き方をしている60代シニアを「令和シニア」と呼ぶ。90年代頃から世の中に出始めたIT業界の企業の経営者や起業家、各業界で先陣を切っている著名人には、今60代の方が多く含まれている。時代を切り開き、今なおエネルギッシュで、この世代の新しい生き方を現在進行形で見せてくれている方々が多い。
65歳以上のシニア人口は増加し続けており、2023年時点で3635万人と総人口の29%を占める。2040年には約3929万人に達し、総人口の35%にまで上昇すると予測されている。高齢化は、新たなビジネス創出の源泉となり得る、巨大な市場開拓の機会でもある。
60歳以上で「財産を自分のために使いたい」と回答した人の割合は、全体で33.0%だが、60代前半が41.1%と最も高く、全体の数値を上回っている。令和シニアの中には「消費したいものがあるから、貯蓄を取り崩してでも消費する」という、積極的で意思を持った消費を行う層が存在することが予測される。だからこそ、シニア市場においては、単なる価格訴求ではなく、シニア層の価値観に深く響くような、質的な価値を訴求するマーケティング戦略が重要になる。
シニアの質的変化
アクティブな60代前後の現代シニアの人々の意識や消費行動は、ひと昔前の「お年寄り」のイメージとは大きく様変わりしている。このシニアの中での質的変化が、シニアの消費拡大を引き起こす要因の1つと言える。
①若々しい「身体感覚と意欲」
医療の発達や健康志向の高まりもあり、シニア層の心身の若さは日に日に増している。
②新しいもの・デジタルへの関心
デジタル化が進んだ現代のシニアはテクノロジーにも比較的オープンで、新商品やトレンドへの関心が高くなってきている。スマートフォンの保有率は60代86%、70代64.4%。キャッシュレス利用も拡大傾向にあり、SNSやYouTubeで情報発信・収集する「デジタルシニア」も増えている。
③消費対象の広がり
現代のシニアは幅広い趣味や娯楽に積極的で「自分の好きなものに消費する」傾向が強まっている。
令和シニアの特徴
令和シニアの中心になるのは「新人類」と呼ばれてきた世代である。新人類世代は高度経済成長期の1955〜1964年に生まれ、2026年現在ではすべての人が還暦を迎える世代である。令和シニアは、高度経済成長、バブル景気とその崩壊、デジタル革命といった、これまでの世代が経験してこなかった社会変化の「最前線」に立たされ続けた。
その結果、令和シニアたちは次の4つのスキルを人生で獲得してきた。
- 新しいものを試す瞬発力
- 自分基準で選び抜く審美眼
- 環境変化を糧にするレジリエンス
- 人とのつながりをしなやかに編む力
社会の第一線で長きにわたり活躍してきた令和シニアは、定年退職で終わりではないというキャリア観を持っている。その根底にあるのは「できるだけ長く働き続けたい」という強い意欲である。若年層で働く意識が年々低下傾向にあるのとは対照的に、令和シニア層は、その意識が右肩上がりに高まっている。単なる経済的な理由だけでなく、仕事を通じて自己実現や社会とのつながりを求める、より内発的な動機があることがうかがえる。
さらに「転職・転業もいとわない」というチャレンジ精神を持つ人が年々増加しており、平日の自由な時間を「仕事や勉強をする」といった自己投資、スキルアップのための行動に充てる層が、ここ数年で最も高いスコアを記録している。これは「生涯現役」志向を裏付けるものである。
令和シニアは引退を考えるよりも、現在を再始動のステージと捉え、自身の未来に対して可能性を見出している。この背景には、激動の時代の中で自己実現を先送りにせざるを得なかったことに対する反動がある。彼らはバブル崩壊や不況、子育てや介護といった「社会から求められた役割」を全うするために、自分個人の夢を後回しにしてきたという自覚がある。
令和シニアのお金は、未来への投資と、経験の充実に注がれている。彼らは長年の生活経験や知見に基づき、単なる節約でなく、自分にとって本当に必要で満足できるものを見極める消費スタイルへと進化している。この令和シニアの持つ「自分基準」が、企業にとってはビジネスチャンスになる。
令和シニアは、スマートフォンを「新しいライフスタイルを支える道具」として能動的に活用している。スマートフォンが生活の基盤となったことで、9割以上の60代が何らかの形でSNSを利用し、8割がインターネットで検索する時代となった。一方で、令和シニアが「60代向け」というフィルターをかけた途端、情報が極端に少なくなるという市場における情報提供の欠落が生じている。情報提供側が令和シニアの意欲に応えられていない問題がある。