言語化の徹底
アマゾンの成功には「言語化の徹底」が大きな役割を果たしている。アマゾンでは、社内の意思決定においてパワーポイントを廃止し、すべての企画や提案を文章化することが義務付けられている。文章はパワーポイントに比べて情報密度が7〜8倍も高く、さらに人は話を聞くより、文章を読む方が約2倍速いとされている。文章の黙読により、意思決定者は短時間で、膨大な情報を深く理解できるようになり、複雑な状況や多岐にわたる論点も、論理的な構造を持った文章によって、より明確に、効率的に伝わるようになった。
優れた文章を書くためには、表面的な文章力ではなく、問題の本質を見抜き、論理的に構造化し、データと事実に基づいて議論を組み立てる能力が必要である。この言語化の手法は、アマゾンの企画プロセスの中核である「逆算思考」という手法に昇華された。新製品の開発は、技術やトレンドではなく、顧客に届ける価値から「逆算」して書くことから始まる。
言語化する5つの基本
アマゾン式言語化の技術の核心は、思考を整理し、相手を動かすための体系的なアプローチにある。その原則は次の5つ。
①何よりも大事なのは問題の言語化。アイデアよりも問題に注力する
まず問題を言語化することで、チームを正しい方向に導き、協力体制を築くことができる。さらにアイデアよりも問題に集中する方が、周りの協力を得やすい。問題を上手に言語化するには、3つの要件がある。
- 誰の問題なのかが具体的である
- 問題を裏付けるデータがある
- 解決策に言及していない
②捨てた選択肢も見せて、自分の思考過程を示す
人はいきなり最善の解決策を提案されるよりも、複数の選択肢と、それを比較検討した過程を公開することで、提案の論理的な裏付けが明確になり、より深い納得感を得られるようになる。思考過程を言語化するためには3つの基準を示す。
- 判断するための評価基準
- 基準の優先順位
- 各選択肢の評価
③想定問答集をあえて見せると、信頼が増す
耳の痛い質問にあえて正面から回答を用意し、それを言語化することで、起案者の検討の深さを示し、議論のメンバー間に高い信頼感が生まれる。
④「速い思考」も利用して、情に訴えかける
感情や直感に訴えかける効果的な方法の1つは、提案を会社の価値観と紐づけて言語化することである。会社の価値観は、社員全員で共有している共通理念であるため、聞き手は直感的にも意識的にも、その価値観そのものを否定することが極めて難しくなる。
⑤伝えたいことの構造を整え、一目でわかるようにする
良い文章とは、読み手が考える負担を極限まで減らした文章だと言える。そのためには、内容がどんな流れでできているのか、その構造が一目で理解できるように言語化する必要がある。鉄板の構造は次の2つ。
- SCQA:状況→問題→疑問→答え
- ピラミッド構造:結論→根拠→事例
企画書の作成
アマゾンでは、企画書を作成する際、最初に「顧客への価値」を言語化することから始める。アマゾン式言語化の第一歩は、企画時に避けては通れない「5つの顧客の質問」への答えを言語化する。
- 顧客は誰で、彼らに関するどんな洞察があるか?
- 顧客の主要な問題は何? どんなデータを見てこう思うのか?
- 解決策は何? なぜこの方法が正しい解決策なのか?
- どんな顧客体験を提供するのか? 一番大事な顧客のメリットは何?
- どう成功を定義・測定するのか?
秘訣は、この5つの質問で「何を言語化しないか」にある。ほとんどの企業は新たな企画を考える時、会社の都合から議論を始める。アマゾンでは会社の都合は忘れて、この5つの質問への答えを言語化することに集中する。
「5つの顧客の質問」を深く言語化すると、顧客に提供する価値が明確になる。ここで初めて、会社側の戦略的メリットを言語化する。
事業計画の考え方
本当に価値のある事業計画を言語化するのは容易ではない。残念な事業計画は、突き詰めると以下の3つのパターンに集約される。
- 既存の延長線に過ぎない
- 取り組みが多過ぎて結局何もできない
- 日々の活動と紐づいていない
アマゾン式の良い事業計画とは、野心的なビジョンを掲げた上で「今年」「今週」「今日」やるべきことを言語化してくれる。3〜10年後を見据えた大きなビジョンを持ち、それを実現するための今年の重点テーマや取り組みを明確にし、それらを人員・予算と照らし合わせて絞り込む。絞り込んだ取り組みは、売上や利益とは別の行動レベルの目標と結果に落とし込み、1〜2週間ごとで進捗状況を追跡していく。
アマゾンでは、事業計画の策定直後に、施策を達成できた状態を「目標」として書き出す。目標を書く際は「SMARTの法則」を意識する。特に重要なのは、売上や利益などの「結果指標」ではなく、結果指標に最も影響を与える「先行指標」が何かを考え、以下の観点で言語化することである。
- 成功の定義
- チーム間の依存関係
- 施策の優先順位