起業家になる前に知っておいてほしいこと

発刊
2026年3月4日
ページ数
288ページ
読了目安
261分
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アスクル創業者の経営哲学
アスクル創業者が、様々な経営課題に対して、アスクルでの経験をもとにアドバイスを書いている一冊。

アスクルの経営においても、様々な課題に直面したことを踏まえて、その時々でどのように意思決定をしてきたのか。経営によくある難問について、どのように乗り越えるかのヒントを与えてくれる内容になっています。

稼ぐことと社会課題の解決、どちらを優先させるべきか

アスクルは1993年に事務用品メーカーであるプラスの社内ベンチャーとして始まった。その最大の目的は、プラスの商品を拡販することで、長年、後塵を拝していた最大手メーカーに勝つことだった。背景には、流通支配型メーカーによる独占構造があり、1980年代まで、文房具業界でも、大手メーカーがリベートや報酬制度などで小売店を囲い込み、ライバルメーカーの商品を排除することが行われていた。

 

どうすれば最大手メーカーに勝てるのかを議論するための委員会が立ち上がり、ある時、社長が疑問を口にした。オフィスビルの搬入口を朝から晩まで見ていると、たくさんの業者がそれぞれの配送車で、ひっきりなしに出入りしている。これは非常に効率が悪いのではないか、という疑問である。

オフィスで必要なものを、まとめて配送するサービスがあれば、その方が効率的である。さらに大企業は中小企業よりも圧倒的に有利な条件で商品を買っていることが見えてくる。そこで、委員会では2つのキーワードが出た。

  1. プラスにとって、お客様は誰?:最終的に商品を使う消費者
  2. 社会最適であるか?:中小企業向けにオフィスで必要なものをまとめて配送するサービス

こうして、アスクルの事業アイデアが生まれた。

 

直接お客様に商品を販売すると、卸業者や小売店を介さない分、商品の原価が下がるので、安く販売できる上に、素早く商品を届けることができる。ただ、直接販売するためには、お客様の開拓が必要なため、「エージェント制度」をつくった。卸業者や小売店にアスクルのエージェントになってもらい、お客様の開拓をしてもらい、注文金額の一定割合がエージェントに入る仕組みである。

 

世の中のビジネスも、戦後構築された社会システムも、時代の変化と共に、社会最適になっていない部分が多くなる。それによって、誰かが何らかの不都合を被っている。そうした部分を社会最適な形に変えれば、今まで不都合を被っていたお客様から支持されるビジネスモデルが生まれる。

社会最適の実現に取り組んだことは、物流の効率化という社会課題の解決にもつながった。社会最適の視点から物事を考えると、おのずと社会課題の解決にもつながっていく。また、利益を出して、会社を大きくすることで、様々な社会貢献活動もできるようになる。まずは社会最適になっていないビジネスや社会システムを、身近なところで探してみるといい。

 

競合他社に勝つためにどのような分析をすればいいか

アスクルもどうすれば競合他社に勝てるかを考えたところから生まれた。しかし、いざアスクルを立ち上げると、早々に競合他社に勝つことばかり考えていては事業を成長させることができないことに気づいた。

創業当初は、ほとんどプラスの事務用品しか扱っていなかった。中小企業向けの通信販売のダイレクトモデルとして考えていたので、全体の1割程度はプラス以外の商品も売っていたが、事務用品以外のものだった。立ち上げの目的が、プラスの商品を拡販し、業界最大手のメーカーに勝つことだったからである。

 

ところが、サービスを開始すると、お客様から「明日届くのは便利だが、プラスの商品ではなく、ライバル会社の商品が欲しい」という問い合わせが次々と寄せられた。

なぜ、プラスの商品ではいけないのかを、お客様に伺った。すると、他社の商品をずっと使い続けており、一発注者の権限で簡単には変えられないという事情がわかった。デザインや使い勝手など、お客様は使い慣れたものを求めるのは当然である。

 

そうして出した結論は、プラスの商品だけでなく、お客様が求めるライバルメーカーの商品も売ることだった。最大手メーカーをはじめ、他社の商品も買えるようになれば、アスクルというサービス自体の魅力が高まり、利用するお客様の数が増える。すると、売上に占めるプラス製品の割合は減っても、プラス製品の売上は増えると考えた。

役員会では、予想通り大反対をされた。特に最大手メーカーの商品を扱うことに関しては大きな反発を受けた。しかし、最終的には、当初は大反対だった社長に決断してもらい、ライバルメーカーの事務用品を売ることができるようになった。

 

他社商品を本気で品揃えしたことが、アクスルの成長の大きな要因となった。売上高は1994年の2億円から2000年には471億円と伸びていった。それに応じて、プラス製品の売上も伸びていった。

 

短期的には敵に塩を送る行為だとしても、長期的に見れば、その方が自社の売上や利益が増えるのである。競合他社に勝つことを考えるよりも、お客様の声を聞くことの方が大切だということを実感した。そして、自分たちにとって不都合な声にこそ、お客様のニーズがあるということである。

 

参考文献・紹介書籍