マーケティングで「選ばれる街」を目指す
財政的な危機に直面し、衰退モードに突入しつつあった千葉県流山市の人口は、2005年約15.1万人から2025年21.3万人を超えた。人口増加率は、全国792市の中で6年連続1位となった。人口構成も2025年には子育て世代の30〜40代が最も多くなり、2003年から2025年の22年間に、人口は約41%、市税収入は約97%増え、財政危機を回避し、健全財政となった。
全国的な知名度がない街が変わった理由には、選ばれる街にするための「マーケティング」戦略がある。
かつて衰退しつつあった流山市は次の2つの危機を迎えていた。
- 少子高齢化
流山を含む東京近郊の都市は高度経済成長期に地方から移住してきた団塊世代が定住した地域である。そのため、全国平均よりも早く少子高齢化が訪れ、一気に進むという特徴を持っていた。 - TX(つくばエクスプレス)沿線における大規模土地区画整理事業
当時の流山市の知名度はTX沿線11市区の中でも最低グループにあり、地域に対するプラスのイメージは皆無だった。そのため、区画整理を行い売り出しても、流山市が住宅選びの選択肢に入らず、売れ残る可能性が高かった。
この2つの危機を回避し、流山市の可能性を引き出し、「選ばれる街」にするための挑戦を始めた。担税力のある共働き世帯に選ばれ、彼らの子供たちもまた流山で子育てをしたいと思えるような街をつくり、持続可能な住宅都市を目指す。
呼び込みたいターゲット層の真のニーズに応えるために、流山市では全国で初めての「マーケティング課」を立ち上げた。
マーケティング課を立ち上げて最初に取り組んだのが「SWOT分析」である。
- 強み:都心へのアクセスの良さ、森のある豊かな自然環境
- 弱み:全国的な知名度の低さ、整備されていない自然
- 機会:TXの開通
- 脅威:TX沿線の他自治体との競争の中で流山市の存在が埋没しかねないこと
大きな発見だったのは、単純に「緑が多い」というだけでは強みにならないという点だった。自然の豊かさは、整備され、市民にとって親しみやすいものでなければ、街の価値を高める力にはならないと再認識した。
SWOT分析によって、流山市の立ち位置を整理した後、ターゲットの明確化と、都市イメージの具現化に取り組んだ。どのような人たちに選ばれる街を目指すのか。その人たちの目にどう映る街であるべきか。その方向性を定め、わかりやすく打ち出す必要があった。
流山市が掲げたキャッチフレーズが「都心から一番近い森のまち」だった。認知度の向上と情報発信のために、流山市として広告を出稿。取り組みを続けた結果、次第に広告を出さずとも、メディアの側から取材依頼が来るようになっていった。
子育て世代から「選ばれる街」になった理由
共働き子育て世代(DEWKS)の最優先のニーズは「仕事をしながら子育てができる社会インフラ」だと考える。子供を預けて働くことができる環境が整わなければ、何も始まらない。「選ばれる街」になるために行った代表的な施策には以下のものがある。
・駅前送迎保育ステーション(保育園への送迎と保育園稼働率の偏在解消)
市内で複数路線が乗り入れる2つの駅前に送迎保育ステーションを設置。保護者が通勤途中に子供を駅前のステーションに預けると、各保育園へバスで送り届けるようにした。
・路線バスと市コミュニティバスの導入
TXの開業に向けて、民間バス事業者の路線を導入。あわせて、住宅地には小型バスを活用したコミュニティバスを導入した。この取り組みによって、車がなければ生活できない街から、公共交通で動ける街にした。
・英語教育の強化
2008年に、市内すべての小学校に英語活動指導員を配置。2011年に、すべての中学校に外国語指導助手を配置し、小学校5、6年生向けの英語教育プログラムを開発し、中学校教育との接続を行なった。
・緑の多い良質な住環境整備
世界中で住み続けたいと思う人気の街には、2つの共通する条件がある。
- 緑の多い良質な住環境:緑があることで景観価値が大きく向上し、環境価値も高める
- 快適で楽しい都市環境:市民が住む街の中で憩い楽しみ、交流し、市外からも人が集まる賑わい空間もある街
2006年から「グリーンチェーン認定制度」を始動させ、区画整理地に建物を建設する事業者に対して、沿道などに中高木の植樹を中心とした緑地帯を設け、緑視率と緑被率を高めるように依頼した。
・賑わいの空間の創出
「住み続ける価値の高い街」であるためには、「訪れる価値の高い街」であることが重要である。そこで、駅前の広場や公園を活用して、「都心から一番近い森のまち」流山市のシンボルイベント、花と緑の祭典「流山グリーンフェスティバル」などを立ち上げた。さらに交流人口を増やすために「グリーンツーリズム」に取り組んでいる。