企業間物流の危機
2000年以降、Amazonや楽天などのネット通販の成長で宅配便市場は急拡大した。2015年頃からはフリマアプリの利用で荷物が急増し、荷物を配送するドライバーの労働負荷が過重になり、商品を届けられなくなる事態が現実となった。
こうした宅配便で起きた危機よりも、さらに深刻な事態に陥りそうなのが、企業間(BtoB)物流と呼ばれる世界である。工場に材料を納入し、製造したものを在庫として保管する倉庫に運び、そこから最終的な消費地まで運ぶサプライチェーンを形成する各種プレーヤーの拠点間の物流である。
この巨大インフラ産業は、2015年というITが当たり前の時代においても、電話とFAX、手書きのメモで業務をやり取りする昭和のような現場で動いていた。物流現場には「水屋」と呼ばれる斡旋事業者(貨物利用運動事業者)が存在する。彼らは運送手段であるトラックを保有せず、荷主と運送会社の間、もしくは運送会社と運送会社の間を取り持ち、荷物の輸配送を成立させる。
斡旋事業者は、トラックを保有する運送会社にFAXを送り、引き受ける返事をよこした運送会社を荷主側と結び付けるのだが、引き受ける側の運送会社がさらに別の運送会社を依頼することもあり、複雑な「多層構造」になっている。FAXを使った紙ベースの受発注が行われている物流現場では、積載率の基となる荷物量や配送状況、車両の位置も明確に把握できておらず、それが原因で現場の非効率はいつまでも改善されずにいた。
もう1つ物流危機の原因となっていたのが、労働条件の悪さである。労働時間は長いのに給料は低いので、トラックドライバーを確保できない。ドライバーを確保できなければ、稼ぐ力が弱くなり、労働条件を引き上げるだけの力が育たない。そこには、多重下請け構造による賃金の中間搾取、長時間労働の常態化、産業構造の非効率性という3つの要因が潜んでいた。
このままの状態を続けていると、物流が社会のボトルネックになり、産業も生活も大変な事態に陥る恐れがある。こうした危機感からHacobuを創業した。
危機を打開する鍵はデジタル化
物流現場の危機的な状況を打開するにはまず、オペレーションを改め、データの収集・活用を可能にするしかない。それによって、物流現場の生産性を上げ、結果として労働条件の引き上げにつなげていく。その第一歩がデジタル化である。
しかし、デジタル化は口で言うほど簡単ではない。物流現場では、時代の流れに反してアナログのオペレーションが延々と続いてきた上に、多重下請け構造となっている。デジタル化によって案件情報が可視化できれば、従来のように電話やFAXで業務を受託できる事業者を探し回らなくて済む。元請け事業者と実運送事業者の間をフラットな構造で結び付けられる。案件情報の非対称性という、多重下請け構造を成り立たせていた要因の1つがなくなるのである。
多重下請け構造には、荷主を頂点に、元請けとなる3PLや大手トラック会社、その下に位置する中堅運送会社、さらに末端で配送を支える大多数の小規模な運送会社など、ピラミッド構造が存在する。このピラミッド構造の上からアプローチしていかなければ、企業間物流の巨大なインフラは変えられないと気づいた。
そんな中で大手チェーンストアから、仕入れ先から荷物を届けるトラックの到着を把握し、受付や納品を管理するシステムが開発できないかと相談された。このシステム開発が、クラウド上でトラック予約受付サービスを提供する「MOVO Berth」の誕生につながっていった。
物流のデータベースを構築する
トラック予約受付システムを開発し、このチェーンストアに利用してもらうと、チェーンストアに納品する大手食品メーカーなどサプライヤー各社や運送会社は、システムにログインするため、それぞれIDを持つことになる。結果、このチェーンストアと複数のサプライヤーのネットワークが、インターネット上に形成される。このシステムが他のチェーンストアにも導入されれば、ネットワークはどんどん広がっていく。しかも、そこにはどこからどこに誰が何をいつ運んでいくのかという物流データが蓄積されていく。
現在、HacobuのシステムにログインするためのIDを持つのは、物流センターの担当者やそこに納品するドライバーである。プラットフォームの整備に向けてオセロの角戦略を着々と続けてきた。キープレイヤーに導入してもらい、IDの獲得を加速化させる。同時に、データベースに蓄積されるデータの量と質の拡充に努める。「MOVO Berth」以降も、プラットフォーム上で、トラックの動態管理サービス「MOVO Fleet」、配車受発注・管理サービス「MOVO Vista」など、様々なサービスを提供していった。