渋谷パルコの復活 なぜ危機から再生できたのか?

発刊
2026年2月18日
ページ数
280ページ
読了目安
309分
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渋谷パルコの再生物語
2000年代以降、ルミネやファストファッションなどの競合によって、苦戦していた渋谷パルコをどのように再生させたのか、渋谷パルコ店長がその歴史と再生プロジェクトの内容を紹介している一冊。

商業施設において、収益性を大きく左右するリーシング業務の内容やポイントが解説されており、どのように商業施設を流行らせるのかを理解することができます。

渋谷パルコの危機

1973年にオープンした渋谷パルコは、日本の社会の物質的・文化的な豊かさが頂点へと向かう、80年代から90年代の東京を象徴するファッションスポットだった。当時の東京の女性に向けた主要なブランドの多くが渋谷パルコに店を構えたが、「コム デ ギャルソン」や「ヨウジヤマモト」らの新進気鋭のファッションブランドのブティックだけでなく、劇場やギャラリー、カフェも備え、斬新なテナント構成だった。渋谷の外れの人気がなかったただの坂道は「公園通り」となり、日本の商業とカルチャーを、共に次のステージに引っ張り上げるような伝説の商業施設となった。

 

渋谷パルコは、00年代後半から10年代にかけて苦しい時期があった。ルミネという駅ビルに強烈な切り崩しを受け、「H&M」や「ZARA」といったファストファッションにシェアを削られた。渋谷という街自体も、若者の街の座を原宿や新宿に奪われかけ、六本木や麻布台といった新しいショッピングエリアの台頭を許し、かつてのような圧倒的な存在感を失ってしまった。渋谷パルコの取扱高は92年以降、長いこと減少が続いていた。

 

2010年頃から、渋谷パルコをどうするのかについては、社内でも頻繁に議題に上がるようになり、15年に渋谷パルコの建て替えプロジェクトが始まった。建物の高層化などを柱とした都市再生特別地区の認可を受け、高層化した分の上層フロアをオフィスにし、複合的な収益構造とするスキームだった。17年当時は、「日本を代表する唯一無二のファッションビル」という渋谷パルコ全体のコンセプトは決まっていたが、それ以外は白紙に近い状態だった。

 

商業施設の収益を左右するリーシング

渋谷パルコのような商業施設には、様々な店舗やサービスを誘致し、その施設の売上や集客、魅力、賃料を高め、施設の収益性を高める「リーシング」と呼ばれる一連の業務がある。このリーシング業務こそが商業施設の競争力や差別化の源泉であり、業績を左右する。渋谷パルコが復活した背景には、この「リーシング」があった。

 

リーシング業務とは、施設ごとの目的に応じて相応しい出店者をお誘いして、出店して頂く仕事である。施設側には「収益の上がる施設にしたい」といった目的があり、一方でテナント側にも様々な目的や動機がある。その両者をつなぎ、双方の目的を実現させる作業がリーシングである。施設は、テナントの売上から一定の割合の賃料を受け取るため、テナントの売上が伸びれば、それに応じて賃料も増える。

さらにファッションビルの運営はテナントを誘致して終わりではない。売上が上がるようにプロモーションのサポートをしたり、運営の支援をしたりする必要がある。

 

それまでパルコの多くの新規プロジェクトでは、リーシングを始める際にフロアのマップを壁に貼って、そこに自分が知っているブランドの名前をポストイットでどんどん貼っていくというやり方をとっていた。知っているブランドや好きなブランドをとにかく貼り、各担当が順番にブランドに声をかけていくというのがリーシングだった。しかし、その方法だと、ブランドを選ぶ根拠も弱いし、どのようなストーリーや意図でフロアを構成したいかという戦略も見えない。「パルコです」と言えばある程度ブランド側も興味を持ってくれた時代であれば、良かったのかもしれないが、今の時代は通用しない。

だからリーシング云々の前、商談以前に「まずは面白いアイデアをちゃんと考える。そしてそれを伝わる絵にする」ところからやり直す必要があった。

 

渋谷パルコの復活

新生渋谷パルコには「アンダーカバー」や「トーガ」など世界でもトップのクリエイティビティを持つ、日本を代表するデザイナーズブランドが必要だった。彼らを翻意させるためには、インターナショナルに展開しているブランドを増やし、彼らにとってより魅力的な環境を整えていく必要があった。そこで1階にはラグジュアリブランドを入れるという方向性を固めた。

 

1階にラグジュアリブランドを入れることは、ビル全体をビジネス的に成立させる観点からも、有効な方法だった。多くのファッションブランドは、出店を判断する際に、自社の出店区画の近くにどんなブランドが入るかを重視する。周囲に配置されるブランドの顔ぶれは、自社の売上を左右するだけでなく、ブランドイメージにも影響を与えるためである。

1階や2階にラグジュアリブランドを招致できれば、3階以上のリーシングの選択肢は大きく広がり、渋谷パルコ全体に、より個性的なテナントを散りばめることができる。

 

渋谷パルコは、建て替え後、コロナ禍の苦境を乗り越え、23年には売上358億円にまで伸び、建て替え当初の事業計画の2倍近くに達した。25年にはリニューアルを行い「グローバルニッチ」という目指す姿のキーワードを作り、大きな成長を果たした。