個別化された情報空間
私たちはSNSを通じて、自らの「存在」や「人間関係」をプラットフォームに差し出している。SNSに無数のユーザーが集まり、その行動や人間関係、感情が、データとして提供されることによって、広告などの収益へと変換されていく。この段階において、SNSは単なる「つながるための道具」ではなく、ユーザーの人格や社会的関係、ソーシャル・キャピタルを「資源」として収奪する装置となっている。
SNSが特筆すべき力は、その「即時性」と「パーソナライズの精度」にある。SNSでは、ユーザーが好きな時間に好きな情報を投稿し、リアルタイムで他者と共有できる。加えて、プラットフォームが備えるアルゴリズムは、ユーザーの行動履歴、関心、反応といった膨大なデータを学習することで、1人1人に最適化されたコンテンツを表示することができる。
パーソナライズされた即時的な情報の流れは、ユーザーを「見る者」であると同時に「選ぶ者」として再定義する。結果として、多くの人がテレビや新聞といった旧来の情報源から距離を取り、自らの関心や価値観に合致する「タイムライン」へと移行していった。この個別化された情報空間は、私たちの人間関係の構築にも影響を与えた。
「つながり」は情報のフィルターであり、その人の世界認識を左右するレンズでもある。だからこそ、SNSがもたらす「つながりの設計」は、私たちの社会的経験の構造そのものを書き換える力を持っている。
民主主義の危機
民主主義は、熟議の上に成立する制度である。異なる価値観や立場を持つ人々が、時間と労力をかけて他者の意見に耳を傾け、文脈と前提を共有し、合意や妥協を形成する。この熟議のプロセスこそが、対立を単なる衝突に終わらせず、社会を持続的に運営するための知的インフラであり、民主主義の核心である。
しかし、この基盤はSNSというメディア環境によって急速に破壊されようとしている。多くのSNSが、短時間で注意を引き、即時的な反応を促す構造を持っている。可能性が価値を決める設計では、正確性より反応が優先される。結果、熟議に必要な関心の持続・前提共有・時間が切り落とされる。
複雑な政治的課題は、前提知識と文脈の共有なしに説明や理解が困難であり、長文の読解や対話の時間を必要とする。しかしSNS上では、こうした「複雑でわかりにくい情報」は届くことなく淘汰される。代わりに流通するのは、刺激的で敵味方を分断し、怒りや不安、憎悪といった即時的な情動を煽る投稿だ。
SNSのこうしたメディア構造に最も適応したのが、一部のポピュリスト政治家や感情訴求型のアクティビズムである。彼らは敵を名指しし、怒りと恐怖を煽り、数十秒のクリップで支持を獲得する。
「拡散する正義」が求められる一方で、「矛盾する価値の調停」という民主主義の本質的課題は忘却される。感情ポピュリズムに飲み込まれず、短期的な共感や怒りに流されず、「対話を続ける力」を重視する社会設計が不可欠だ。考え続ける共同体としての社会を、自らの手で再構築することこそが、その本質である。
テック・ファシズムにどう立ち向かうか
2020年代に入り、SNSはもはや単なる情報共有の場を超えて、個々の生活や社会全体を支配する強力な力となった、政治的な影響力、経済活動、社会的なつながりまで、SNSはあらゆる領域に深く根を張り、現代の「力学」を形成している。SNSは、その無形の支配力で、利用者の思考に無自覚な影響を与え続け、情報の消費を企業の利益に結びつける仕組みを作り上げた。これが「テック・ファシズムによる支配」である。
テック・ファシズムは従来の独裁とは異なり、強制力よりも最適化と効率化を通じて、人々の認知を静かに方向づけるタイプの支配である。SNSは感情の反応を増幅し、生成AIは知的プロセスの大部分を代行する。
結果として、個人の判断や意思決定は、かつてないほど外部のアルゴリズムに依存するようになった。この環境の中で、人間が「自分の思考」を維持し、発展させていくには、以下の手段が必要になる。
①メタ学習:思考の複利を働かせる
メタ学習は、学習を続けるほど次の学習速度が上がり、結果として成長が複利的に加速していく仕組みである
②スケール思考:自らの影響範囲を拡張する
スケール思考とは、同じ努力量でも、より多くの人に価値を届けられる方法を常に探し続ける姿勢である。
③知の複利:思考を加速させる
知の複利とは、得られた理解が次の理解を加速させ、その加速がさらに次の学習を呼び込むという、学習の自己増殖構造である。
④競争優位性の構築:人間にしかない価値を磨く
個人がテック・ファシズムから自由に生存し続けるには、SNSとAIが模倣しづらい次の3つの価値構造を築く必要がある。
- 深い人的ネットワーク
- パーソナルブランド
- スキルの交差点に立つタレント・スタック