自律するAIと企業変革
AIは、人間のような自然な言語生成と文脈理解を可能にする「LLM」の進化を通じて、主に2つの方向へ拡張しようとしている。
①AIエージェント
単純な質問への応答や文書の生成だけが可能だった生成AIとは異なり、判断から実行までを自律的にこなす。人間の質問に答えるという補助的な役割にとどまらず、タスクを丸ごと任せられる段階へと移行しつつある。AIエージェントは企業内やBtoBに閉じたものではなく、消費者にも活用されるようになっていく。
②フィジカルAI
ハードウェアに組み込まれるソフトウェアにAIが実装され、物理的な仕事を担う。AIとロボティクスの融合は着実に進んでおり、既にテスラやBYDの自動運転車、電子機器受託製造大手フォックスコンの工場などで活用が実現しつつある。現在進化しているAIを搭載したロボットは、運ぶ・握る・振るなどといった身体動作や力加減などを直接学習させられる。ロボットはプログラミング言語を介することなく、動作そのものをトレーニングして習得する。熟練者の技術を短時間で習得・再現することも可能なため、例えば製造業の現場などで属人化し担い手不足が課題となっていた作業もカバーできるようになる。
AIのユースケースの多様化と複雑化は、人間とAIの関係を変える。AIエージェントやフィジカルAIの進化に伴い、行動の部分もAIが担う世界へと移行しつつある。AIが人間に代わってオペレーションを担うにつれ、人間の仕事の大部分はAIの仕事を監視し、必要に応じて介入するという管理業務へと比重が移っていく可能性が高い。従来の組織のあり方を根本から見直さなければならないほどの変化が、すぐそこまで来ている。
現在、AIの活用で求められるレベルは「デジタル従業員」として仕事をこなすAIの参加を前提に、企業と経営のあり方を本質から変革させ、業務プロセス全体を最適化させることである。数十億体ものAIエージェントが業務をこなす時代は近い。
BCGは、AIが業務を担うようになることで組織は主に3つの観点で変化すると考えている。
- 情報共有がピラミッド型からアジャイル型に変わる
- 人間とAIの役割分担が明確になる
- IT部門が「AIの人事部」に拡大する
AIエージェントによって多くの業務が自動化されていくことで組織はスリム化し、1〜3の変化と同時に人間の働き方や、必要な能力の比重も変わっていく。人間の仕事には全体としてより創造性が求められ、高度な判断を要する方向にシフトしていくと考えられる。
データセンターと電力不足
AIを活用するにも進化させるにも、データセンターは不可欠なインフラとなっている。BCGの試算では、世界的なAI活用の拡大に伴って、国内のデータセンター需要は2030年には現状の2倍、2040年には9倍にまで高まるとみている。
データセンターの運用は莫大な電力を消費する。特に自律的にタスクをこなすAIエージェントが今後様々なシーンに導入されていけば、24時間365日処理が行われ、途方もない電力を消費する。つまり、AIの利用増に十分に対応できるデータセンターを増設し稼働させるには、この爆発的な電力需要を満たすインフラも合わせて構築しなければならない。AIの活用、データセンターの増設、電源の増強は三位一体で考えるべき課題となっている。インフラ面での制約によってAIの利用が制限されることになれば、日本は成長の機会を逃しかねない。
既に国内のデータセンターへの投資額は年間5000億円に達しており、数年の内に2兆円の大台へと急成長する兆しも見えている。2025年までは建築リソースが北海道や九州の半導体工場、大阪・関西万博に集中していたものの、その制約が外れることも相まって、潤沢な投資を背景に2026年以降はさらに新設の計画が進む見込みである。
BCGは、データセンターの電力需要が2040年には国内電力需要の1〜2割近くを占めると試算している。この需要をまかなうためには年間平均で10〜20GWの電力供給が必要となり、原子力発電所10〜20基分に相当する。従来の発電所計画を遂行するだけでは、AIの利用拡大に伴う電力需要の急増に対応しきれないことは明らかだ。BCGの想定では、将来的に求められるデータセンター増加分の半分程度の電力までしか対応できないというシナリオも考えられている。
また、データセンター事業者はクリーンエネルギーを志向する社会やユーザーの要請にも応えなければならない。これらの解決策の1つとして、データセンター開発をエネルギーとパッケージングして検討する動きが広がっている。
データセンターを含め、生成AIの利用拡大を支えるバリューチェーンの裾野は広い。こうしたデータセンターの増強をビジネスインフラの再構築と捉え直すと、多くの企業が事業機会を得ることにもなる。