ミドルエイジ起業のすすめ
働き盛りである40代から50代のミドルエイジこそ、起業に最も適した世代である。帝国データバンクの調査によれば、起業家の平均年齢は48.4歳。年代別に見れば若者よりも中高年の方が明らかに起業の成功率は高い。この差を生むのは「経験」と「人脈」である。ミドルエイジは、長年のビジネスで培ってきた「知識」「スキル」「人との繋がり」といった資産を持っている。
ミドルエイジ起業とは、今勤めている会社に在籍しながら少しずつ起業の準備を進め、定年を迎える前にビジネスをスタートするという戦略的な起業スタイルである。この最大のメリットは、収入の安定である。いきなり会社を辞めてゼロから勝負するより、圧倒的にリスクが低くなる。生活費の心配をせず、試行錯誤できる時間がある点は強みである。
ミドルエイジの強みは経験と信用である。会社員として築いてきた人脈、仕事のスキル、マネジメント力などは起業後に想像以上の武器になる。
但し、起業することは決して楽な道ではない。起業するためには「誰かが仕事を与えてくれるだろう」という甘えを捨てなければならない。独立すると、それまで勤めていた会社の「名刺」も「肩書き」も何の意味も持たない。起業には相当なエネルギーが必要になる。最初の数年間は事業が軌道に乗るまで、気力も体力も総動員しなければならない。そのため起業するなら55歳までがベストである。
ミドルエイジ起業には、不安もリスクも伴う。それを乗り越えるには、「何のためにやるのか」という「志」が必要である。お金や肩書きのためではなく、世の中を少しでも良くしたい、困っている誰かを助けたいといった想いが、何よりも大きなエネルギーになる。
誰かがやるべきだが、誰もやっていないことをやる
起業に必要なものは「世の中の違和感を見逃さない目とそこに飛び込む勇気」である。ビジネスの真髄は「人のやらないことをやる」に尽きる。違和感から世の中の課題を見つけ、それを解決する手段を提供することが起業につながる。世の中で注目されるような派手なトレンドは、むしろ潤沢な資金を持つ大企業の独壇場。無視されがちな地味な「困りごと」の中にこそ、個人が起業するための種が眠っている。
ミドルエイジの「人生経験」「ビジネス感覚」「人を見る目」「打たれ強さ」。これまでサラリーマンとして働きながら培ってきたものが、すべて「課題解決の武器」になる。社会の痛みに気づき、それに対して現実的な手段で立ち向かうことが、起業の本質であり、ミドルエイジの果たすべき使命である。
社会が抱える課題を発見するヒントは「3F(不便・不都合・不満)」にある。いずれも世の中の多くの人がうっすらと感じながらも、放置されてきた課題にこそ、ビジネスチャンスが眠っている。
「起業=効率化」ではない。むしろ、「誰もやりたがらない」「面倒だから誰も手を出さない」ことの中にこそ、独自性と価値が眠っている。ミドルエイジ起業をするなら、世の中の流行や利益だけを追いかけるのではなく、「誰もやらないこと」「でも確かに必要とされていること」に挑むこと。その中にこそ、人生をかけて挑むべきビジネスの種がある。
資金調達は慎重に行う
会社を軌道に乗せるには最低でも4年は必要である。どんなビジネスも浸透には時間がかかる。市場に理解され、信用を得るまでには最低2〜3年。4年目になって、ようやく軌道に乗り始める。だからこそ、起業するなら「4年は絶対にやり抜く」という覚悟と資金の準備が必要である。
事業が軌道に乗るまでは「つなぎ資金」として融資は必要不可欠である。しかし、資金が足りなくても自宅を担保に借金をしてはいけない。これは事業がうまくいかなかったら自宅を失ってしまう融資方法である。ビジネスは素晴らしい挑戦だが、家庭は人生の土台である。資金調達は慎重に、自分の貯金と、自治体や政策金融公庫による「創業融資」などの制度を上手に組み合わせることが大切である。
それでも資金が足りない時は発想を変えること。事業の規模を小さくする、初期投資の少ないビジネスモデルに切り替える、出資者を探すなど方法はいくらでもある。
地に足のついた引き際を選ぶ
ミドルエイジ起業を目指す人にとって、「会社をいかに辞めるか」は「どう起業するか」と同じくらい重要なテーマである。お世話になった会社とは、絶対に喧嘩別れしてはならない。会社とはビジネスの戦場であるだけでなく、母校のような存在である。同僚や上司は戦友・恩人であり、いざ自分が独立してからも繋がりは続く。OB会などの集まりで、思いもよらない紹介が決まり、仕事につながることもある。
会社との別れ方は「起業の第一歩」のようなもの。感情的にならず、誰かの悪口を言わず、「この会社での経験があったから」と言える自分でいる。それが成功する起業家の共通点である。