サトシ・ナカモトはだれだ? 世界を変えたビットコイン発明者の正体に迫る

発刊
2025年9月29日
ページ数
432ページ
読了目安
694分
推薦ポイント 14P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

ビットコイン発明者を探るドキュメンタリー
ジャーナリストである著者が、未だに謎に包まれたビットコインの発明者サトシ・ナカモトを追って10年以上にわたって取材してきた内容が書かれた一冊。

ビットコインが広まるきっかけとなった開発者グループの関係者や、イーロン・マスク、ピーター・ティールまで、これまでのサトシ・ナカモトが残した文章の癖から、誰がサトシ・ナカモトなのかを探るプロセスが書かれています。

ビットコインの生みの親

ビットコインの謎の発明者であるサトシ・ナカモトは2011年春に姿を消した。現在もその正体は依然として不明であり、彼の莫大な財産は手付かずのままとなっている。

 

2008年のハロウィンの日に、ナカモトは「P2P電子通貨システム」についての短い説明を、暗号技術に関するメーリングリスト「メッツダウド」に投稿していた。彼が説明していたのは、新しい種類のお金だった。ナカモトはそこに、後に「ビットコイン・ホワイトペーパー」として知られるようになる、より詳しい説明が書かれたPDFファイルへのリンクも含めていたが、このメールの内容が基本的な考え方だった。暗号技術に焦点を当てたこのメーリングリストには、技術に精通したリバタリアン(コンピューター科学の高度な知識を持ち、権威に反感を抱く人々)が大勢集まっていた。

 

ビットコインはオープンソースプロジェクトであり、個々の思惑に左右されない、いわば「村全体での共同作業」だった。しかし誰かが責任者である必要があり、最初の20ヶ月は、その役割をサトシ・ナカモトが担っていた。彼がコードをリリースし、他の開発者が修正案を提案し、彼はそこから気に入ったものを統合していた。

2010年9月頃、ナカモトはプロジェクトメンバーのギャビン・アンドリーセンに対し、管理権を引き継ぎ、ギャビンは事実上のプロジェクトの主任開発者となった。ビットコインを取材するジャーナリストにとって、ギャビンは真っ先に声をかける相手となった。もし誰かがナカモトの正体を知っているのなら、それはギャビンに違いない。しかし、ギャビンは「彼の本名は知らない」と答えた。ギャビンは、ビットコインのコードが少数のメンバーあるいは1人の人物によって書かれたのではないかという印象を抱いていた。

 

ナカモトの候補者たち

ビットコインは暗号技術に関する基本的な知識を必要とし、さらに分散化というリバタリアン的な経済思想によって同期づけられているように見えることから、これを考案した人物は、1900年代初頭に活動していたある過激なグループと関係している可能性が高いと考えられた。「サイファーパンク」と呼ばれた彼らは、デジタルネットワーク化された世界が、個人のプライバシーをいかに危機にさらすかを見抜いており、それを守れるのは暗号技術しかないと確信していた。

デジタル通貨は結局、サイファーパンクたちが手に入れることのできない夢だったが、一握りのサイファーパンクたちは、電子マネーという夢を諦めなかった。彼らの歴史を掘り下げる内に、何度も同じ名前に行き着いたのがウェイ・ダイだ。彼はビットコインが利用している暗号ライブラリ「Crypto++」を作り、現在もそれを維持管理している人物である。また1998年には「bマネー」という概念を発表し、それは後にビットコインに登場することになるいくつかのアイデアを組み合わせたものだった。

「サトシは私ではない」というのが彼の返事だった。ウェイはナカモトから送られてきたメールを転送してくれた。ナカモトはそこに「これは、あなたがbマネー論文で解決しようとしていた目標のほとんどを達成していると思う」と記していた。

 

ビットコイントーク購読者の間で繰り返し話題に上がるもう1人の人物がニック・サボだ。彼がビットコインの知的設計者であるのは明らかだった。彼はビットコインを発明するのに必要な知識、スキル、そして同期を兼ね備えており、ビットコインに対する態度もどこか奇妙だった。しかし彼がナカモトだとするなら、これまで何十万語にも及ぶ文章を自分の本名で発表し、ネット上で数多くの議論を活発に行ってきた人物が、自分の最高傑作の功績を放棄する道を選んだということになる。

 

ニック・サボが紹介してくれたハル・フィニーは、ナカモトがビットコインを発表すると、メッツダウトで最初にそれを賞賛した人物だ。彼はナカモトにソースコードのフィードバックを送り、2009年1月にソフトウェアが正式に公開されると、彼のPCはネットワークの2番目のノードとして稼働を始めた。

彼はナカモトの正体に関する憶測において、常連の容疑者であり続けた。ハルの健康状態の悪化は、ナカモトがプロジェクトから離脱したタイミングを説明できるだろう。ハルは、ドリアン・プレンティス・サトシ・ナカモトという人物と2マイル離れた場所に住んでいたが、彼の姉はドリアンの家から3ブロック半の場所に住んでいた。ハルはそこでドリアン・ナカモトの名前を知ったのかもしれない。

 

ナカモトがグループであるという説は、ビットコインの理念とも一致している。ビットコインは分散化されており、その創造主も同様という訳だ。仮面が分散化されたことで、そのメンバーも誠実さを保ちながら、自分はサトシではないと否定することが可能になった。