時間をかければ成果が出るというわけではない
どんなに努力をしていても、自分が馴染んだ物事だけを続け、失敗の回避ばかりを意識していると、理解もスキルも能力も、今現在のレベルにとどまったまま伸びることがない。この矛盾にはまり込んだ人は、大抵パフォーマンス中毒になり、行き詰まって抜け出せなくなる。
人の資質やスキルが伸びるかどうかは、本人がそれらは伸ばせるものだと思っている「成長型マインドセット」が必要になる。さらに「私は変われる」と信じるだけでなく、パフォーマンス中毒の習慣を壊していかなければならない。そのためには、時にはパフォーマンスにこだわらず、学習や練習に集中して、結果を度外視する必要がある。結果が出ているふりをするのではなく、失敗は認めた上で、自分はどんな部分を伸ばそうとしているのか、どうやって伸びようとしているのか、常に意識のトップに置いておく必要がある。
パフォーマンスと学習のバランスをとる
現代の複雑で急速に変化する世界でうまくやっていくためには、パフォーマンスと学習のバランスをとり、その2つをうまく融合させていかなくてはならない。パフォーマンスだけに集中していると、スキルは伸びず、むしろ本筋から離れたり、最悪の場合は後退していったりする危険性がある。
人はこの矛盾に気づかず、パフォーマンス中毒になって、ただただ目の前のことだけを頑張ってしまうことが多い。別の方法に挑戦したり、フィードバックを受けたり、予想外な結果や不本意な結果を検証したりして、そこから学ぼうとしないのだ。本当に伸びていきたいなら、子供の頃の好奇心や学びの習慣を取り戻す必要がある。
どんな分野であれ、成長とパフォーマンスを叶えるために、私たちは次の2つの心理状態を必要とする。
①ラーニングゾーン
今はまだできないことやわからないことについて問いを立て、実験し、ミスを検証し、調整して、少しずつ優れた結果に向かっていくプロセス。スキルアップや手堅い成功といった配当をもたらす長期的投資と言っていい。ラーニングゾーンに多大な時間を費やす必要はないが、漫然と学んでいても意味がない。
②パフォーマンスゾーン
ベストを尽くして能力を発揮し、ミスを最小限に抑えようとする時、人は「パフォーマンスゾーン」にいる。パフォーマンスゾーンにすべての時間を費やしていると、その後に来るのは行き詰まり、ストレス、バーンアウトである。
経験を振り返ることで学びを得る
経験しただけで向上できるのは新米の時だけだ。熟練してくると、パフォーマンスゾーンにラーニングゾーンを組み込む必要がある。この2つのゾーンの融合を「実践しながら学ぶ」と呼ぶ。そのためのサイクルは以下の通り。
- 新しいことを試して、どうなるか効果を経験する
- 観察したことを振り返る
- 観察に基づいて仮説を立てる
- 仮説をどうテストするか計画する
- 新しいパターンに挑戦し、一連の流れを繰り返す
私たちは大抵To-Doリストをこなすことだけを目標にして、そのために時間を使ってしまう。だが、改善や成長を視野に入れながら業務を実行した方が、得るものは大きい。大事なのは、好奇心を持つこと、問いを発すること、新しいものを試してみること、フィードバックを求めること、別の情報にも耳を傾けてみることだ。
ラーニングゾーン6つの基本戦略
新たな技能を習得するには、正しいラーニングゾーン戦略が必要不可欠である。
①意図的に練習をする
不得手なこと、全くできないことに相当の時間をかけ、具体的な方法を用いて継続的に努力をする。
②小さな実験で大きく学ぶ
小さく実験すれば、たとえ想定外の問題や失敗が生じても、影響が小さい。手早く修正して再度実験ができるので、より迅速に、より深い学びが得られる。パフォーマンスが向上しそうなアプローチを実際に小さく試してみれば、たとえうまくいかなくても、その実験から学んだことがきっと将来的に役に立つ。
③がむしゃらではなく、賢く努力する
賢く努力する方法はいつでも意識して探し続けるべきだ。何か見つかったら、試してみて、うまくいきそうなやり方を見極め、どう修正すべきか考える。
④直感を磨く習慣形成
直感を育てるコツは、以下の通り。
- 伸ばしたい分野を特定する
- レベルの高い情報源を見つける
- 混乱や失敗への対応を活かす
- 周囲を自分の「顧問団」にする
⑤ブルドーザー作戦は使わない
すべての時間を使って1つのタスクだけに没頭することを「ブルドーザー作戦」と呼ぶ。この作戦は短時間ならうまくいくかもしれないが、長期的な戦略としては、意識や気持ちを入れ替える時間をとった方が効果的だ。
⑥「なぜ」と考える
「なぜ」の瞬間は、高次の」目標を達成するための全く別の道を思いつく手助けになる。低次の目標ばかりにフォーカスするのは望ましくない。頭打ちにならないために「なぜ」と問いかけていく必要がある。