なぜ日本企業ではDXが進まないのか
日本でDXの成果が上がらない大きな理由の1つに「経路依存性」が挙げられる。経路依存性とは、過去の状況において下された判断や意思決定が、現在の選択や決定に大きく影響することで強固な制約がかかる現象を指す。つまり、人や組織が「過去に縛られている」状態ということだ。
元々、日本には経路依存性が強い企業が多く、過去の成功体験や日本固有のビジネスモデルの中で最適化されてきた組織の仕組みを、現在だけでなく未来にも当てはめようとする傾向が顕著だという。経路依存性から脱却できない要因には、人的要因、組織的要因、ビジネス的要因、技術的要因の4つがあり、そうした企業がDXの推進において直面する主な課題には以下の4つがある。
- 変化を避けるマインドセットと文化
- 縦割り組織による部門間連携の阻害
- 過去の成功モデルへの固執による意思決定の停滞
- 新技術導入を阻むレガシーシステムへの依存
つまり、より大きな成果につながる合理的な手法があったとしても、あくまで現状に固執して変わろうとしない考え方が、成果や成功への道を阻んでいる。
DXの成功にはCIOのリーダーシップが欠かせない
DXの取り組みが進む企業ほど、その問題は「人材・スキル不足」という形で顕在化する。こうした、過去の仕組みや慣習に縛られて変革が進まないという根深い問題を解決するためには「人起点」での変革が重要である。
「人起点」の考え方では「エンドユーザーのことを深く理解していること」と「クライアント企業のビジネスを深く理解していること」の両方が鍵となる。「人起点」のアプローチをとることで、企業は人と企業を結びつけ、変化を起こし、これまでになかった新しい価値を生み出すことが可能となる。
人起点の変革は、明確な理由と目的を示し、対話によって従業員の共感を引き出し、行動変容の土台を築くことから始まる。さらに現場がすぐに動ける環境を整え、テクノロジーの力でその行動を加速させる。
この変革をリードしていくのが、CIOであり、その役割は、システムの運用やコスト管理といった従来の枠組みを超え、企業の成長と変革を牽引する中心的な存在へと進化している。CIOはテクノロジーを活用したビジネス戦略を立案し、企業の競争力強化を主導する役割を担う。CIOは、ビジネスニーズを深く理解し、テクノロジーで実現することで競争力を高め、社内外のステークホルダーとの連携を通じて企業価値向上にも貢献する。
CIOは、IT戦略を構築しデジタル変革を推進するために、以下の5つの要素を組み合わせて推進する必要がある。
①自社ビジネスに対する真の理解
自社の強みを発揮できる既存事業、および未来の成長を支える新規事業を正しく理解する。
②組織とプロセスの変革
データ活用を前提とした組織とプロセスを再構築し、データ活用戦略を組織内の文化に浸透させる。
③デジタル人材の整備
デジタルに関する従業員のスキルとリテラシーを高め、かつ、デジタル人材が働きやすい環境を整備する。
④アジャイルな思考とプロセスの定着
アジャイルなマインドセット、つまり計画・設計・開発・テストといった開発工程を機敏かつフレキシブルに繰り返す思考を組織に浸透させ「走りながら考える」へと転換する。
⑤テクノロジー活用の基盤整備
情報システム部門が中心となってガバナンスの効いたIT環境を整備し、クラウドなどの活用を加速する。
「人起点のテクノロジー変革」は、これらのポイントを踏まえて実行していくが、CIOのリーダーシップにかかっていると言っても過言ではない。
「人起点」の変革を成功へと導くフレームワーク
DXとは一過性のテーマではなく、少なくとも5年、10年といった長期的なスパンで組織が一丸となって取り組むべき経営課題である。長期の変革プロジェクトから多くの成果を獲得するためのポイントとして挙げられるのが「人材のスキルや組織のあり方」と「経営層のリーダーシップ」である。
その上で組織が一枚岩になるために、経営層と業務の現場、CIOをリーダーとする情報システム部門が三位一体となって取り組んでいく必要がある。こうした取り組みを成功に導くためには「4X思考フレームワーク」が有効である。
「4X思考フレームワーク」は、次の4つの要素で構成される。
- CX(顧客体験の変革):デジタル時代における顧客の本質的な価値観を見極め、提供価値を再定義する
- EX(従業員体験や組織の変革):従業員の自律性とスキル向上を促し、企業全体の競争力を高める
- OX(業務プロセスや業務運営の高度化):テクノロジーを活用し、オペレーションの効率化と価値創造を最大化する
- MX(経営における意思決定基盤の高度化):データドリブン経営を実現する
4つのXは相互に補完し合う関係にあり、同時並行で推進することで持続的な成長と次世代への価値創造を加速させる。