生成AIを構造的に捉える5つの波
生成AIを構造的に捉えるためには、次の5つの波がある。
- 生成AIの加速的進化
- AGI、ASI、シンギュラリティー
- AIネイティブなスタートアップ
- BIGTECH
- 既存産業内の競争
日本では、ChatGPTをいかに効率的に使うかという視点で考えがちである。これは人間をAIに置き換えるリソース論だけの理論に過ぎない。大切なのは、どこで戦いを起こして、どこで波に乗るかといった戦略である。
AIの進化の中で大切なことは、これまでの人や仕事の置き換えではなく、新しいビジネスが生まれることである。これまでデータとして使えなかった非構造化データが分析に使えたり、例外的なデータを作り出すことで学習が進んだり、ハイパーパーソナライゼーションといったサービスが提供できる。
地政学的な観点からは、これまでオープンAIやエヌビディアが1強だった分野で混戦に変わり始めていること。クローズモデルからオープンモデルに変わっていることは重要なファクターである。これまでChatGPTでは専門モデルの利用ができなかったシーンで、専門モデルを活用できるように進化が続いている。
スタートアップに見る生成AI戦略
生成AIと相性がいい職種を見ると「マーケティング&セールス」「顧客対応」「製品・研究開発」「ソフトウェアエンジニアリング」が特に影響を受けやすいと指摘されている。こうした職種での影響に対して、多くの産業がマトリックスで組み合わさり、生成AIと職種の相性のいい「ある産業の特定の職種」が見えてくる。
生成AIのスタートアップは、産業と職種のマトリックスの特定の1コマから、業界特化型アプリケーションを提供していくことが多い。そうしたニッチな業界に特化したアプリケーションからスタートして、マトリックスの異なる産業の同じ職種や同じ産業の異なる職種にマスを広げていく戦略を採っている。
LLMを作っているオープンAIなどの一部の企業以外は、LLMの性能で勝負するのではなく、いかに業務知識をLLMで学習しやすい形に生成するかの知恵を絞ることで価値を提供する必要がある。LLMをファインチューニング(追加学習)するための学習データをどのように生成するかが、生成AIビジネスを生み出す上で問われている。
生成AI業界は、エヌビディアなどの半導体が儲かるピラミッド型の構造にあるが、10年かけて上位レイヤーのアプリケーション側が儲かっていく逆ピラミッド型の構造になることが考えられる。今後の生成AI業界を見る時、下位レイヤーから上位レイヤーへと中心が移りながら業界規模が拡大していく歴史を念頭に置く必要がある。
アフターAI
クローズなAIモデルを利用したChatGPTなどは、世界中の人が同じAIに質問を投げて回答を得ている状態である。一方で、オープンなAIモデルでは、質問に対する回答を得るだけでなく、追加学習したり、監視・評価をしたりすることが可能である。
既にオープンなAIモデルの能力は、ChatGPTなどのクローズなAIモデルに匹敵するところまできている。こうしたコモディティ化したオープンなAIモデルを活用し、自分たちのビジネスに役立つAIを開発した方がいい。
2025年からの近い将来を見渡すと、業務特化型AIが多く登場してくるだろう。コンサルタントのような生成AIモデルの利用である。こうした用途では、データセンターの推論型のAIサーバーで処理をする形態が主流となる。こうした業務特化型AIの発展を見据えたハードウェアやソフトウェア、サービスが伸びていき、投資につながる状況が見て取れる。
その先、最終的には様々な機器などへの組み込みAI用のAIデバイスの利用が広がり、ハードウェアの数は数十億といった単位に上ることが想定される。ハードウェアがそのようにシフトしていくと、その上で動くAIの基盤モデルやアプリケーションはさらに拡大し、大きな逆三角形のピラミッドが出来上がる未来が想像できる。
このような逆三角形のピラミッドを実現するためには、4つの壁がある。
- 微細化の壁:半導体の単純な微細化にも限界が来る
- 通信容量の壁:プロセッサー同士の通信能力がボトルネックになる
- 計算量の壁:演算量はどんどん増え、量的に演算不能領域が来る
- 電力の壁:微細化、通信容量、計算量の複合的な理由でエネルギーの消費量が増大する
アフターAIの世界を俯瞰する上で、最も重要な壁が「電力の壁」である。微細化や省電力化を進めても、人類はその余力があるだけ電力を使ってAIを稼働させる。その先には電力がキャップになってAIの稼働が制限されるという未来も想定される。電力が学術研究の壁になったり、逆にAI研究者を多く稼働させられるだけの電力がある国は金融分野でブレークスルーを起こせたりといった新たな可能性が見えてくる。