なぜ、それを買ってしまうのか

発刊
2014年7月1日
ページ数
232ページ
読了目安
222分
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消費者の不合理な買い物行動
消費コンサルタントの著者が、行動経済学の研究をもとに、消費者の買い物をする時の錯覚行動を紹介しています。

賢く買い物をするにはどうすればいいのか

買い物で肝心なのはワクワク感である。お金を費やしただけの「価値」を手に入れられなかったと感じたなら、買い物に「失敗した」事になる。

今から50年くらい前に「賢い消費者」という言い方がされるようになった。賢い消費者になれば、買い物=消費の行動で失敗する事はなくなりそうだ。

 

上手に賢く買い物をするには、そのための情報が揃っている事が前提になる。例えば、安全かどうか見極めるのにも情報は必要である。かつては、商品についての知識、情報量など、圧倒的に消費者の方が少なかった。ところが、ネットの普及した高度な情報社会では、情報自体は以前より容易に、より多くを得られるようになった。情報が少なすぎるという状況はなくなりつつある代わりに、情報が正しいかどうか、見極めなければならない新たな状況に直面している。

しかも、情報を集め、整理し、吟味して買い求めた商品が、いつでも満足できる訳ではなかった事にも気づかされる。コスパを追求したり、事前に情報収集したりする人が、過去10年増えてきて、その後に少し減少している。これは多くの情報に疲れてしまったからかもしれない。

 

「なぜ、その商品を買ったのですか?」という問いに答えるのは、いちいち理由を確かめながら買っていない私達には、本来、難しい事である。しかし、「なぜ?」の結果には、原因となる理由があるはずだと思い、その理由を私達は必ず探してしまう。

私達は商品を選ぶ時に、他の商品と比較検討して、その商品を選んだと思いがちである。しかし、お客さんの話では「いま」と「最近の買い物傾向」をごっちゃにしている事がよくある。実際の買い物ではワーキングメモリーの限度枠「7±2」の上限まで使われる事もほとんどない。普段よく買っている商品ジャンルでは、最初に目に入ったよく買う商品がその時の条件に合えば、そのまま買ってしまう。私達は、選択肢が多い事を好みながら、実際に選択肢が多ければ選ぶストレスを感じる。

 

情報は少ない方がいい

これまで、選択肢は多い方がいいと語られてきた。情報過多となった現在でも、情報は少ないよりは多い方がいいと思われがちだ。多ければ必要な情報も含まれる可能性が高まり、不要な情報を取り除く事の方が簡単だと思うからである。しかし、商品のコストパフォーマンスが良くても、その商品を買うために行った労力を考えると費用対効果はあまり良さそうに見えない。私達はできるだけ多くの情報を集めて、よく吟味しようとするが、複雑に考えるほど、過去の事実の焼き直しになってしまい、不確実な環境に対応できない。これに対応するには、直感を使って、将来を予測するのに重要な情報を絞り込み、その情報だけで判断する。情報は少ないに越した事はない。

 

買い物で失敗しないためには、すでに評価の定まっている「ブランド物」を選ぶのも1つの方法である。迷ったら「多数派にならえ」である。もし、価格の高さを気にするなら、よく知られたブランドの2番手を選ぶ方法もある。

消費者にとって、一度買っていいなと思ったブランドを覚えておくと、次に買う時そのブランドを見つけるだけで済むので、短時間で買い物ができて便利である。ブランドが品質を保証してくれるからである。さらに、買い続けていれば、体験を通じてブランドとの絆が深まる。そこに個人的な自分だけの意味を見出す。

「なじみがある」と思ってもらう事は、ブランドにとって重要な事である。人は既知を好む。たとえ錯覚であっても「なじみ感」は過去に由来する。人が既知を好むのは、全く知らないよりも認知しやすいからである。

 

選択肢は少ない方がいい

店選びに重要なキーワードには「近い」に加え「品揃え」と「選択」を挙げる事ができる。しかし、店選びで「品揃え」と「選択」を重視するお客さんが多いからといって、品揃えや選択肢をただ増やしても売上につながらないばかりか、管理コストがかさんで利益を損なう事は、経験則的に小売業界ではよく知られている。

「品揃えが豊富」だと感じると「選べる楽しさ」があり、「品揃えがいい」と「選びやすい」と感じたりするのは、主観によるものである。そうお客さんに感じてもらえるように、品揃えをアレンジするのが小売業の役割である。

 

ところが、選べるのは楽しい事だが、実際に選ぶのは難しい事である。選ぶ事にはリスクが伴い、リスクを回避したければ、よく吟味して慎重に選ばなければならない。でもいつも慎重に選んでいては疲れるばかりか、買い物を楽しむ事ができなくなる。

私達は、選択肢の多い事を歓迎するが、実際に多くの選択肢から選ぶとなると音を上げてしまう。人間が一度に正確に処理できる情報量は「7±2」だとされる。情報量がそれ以上になると、記憶が曖昧になったり、間違えやすくなったりする。