全員参加の経営「アメーバ経営」
アメーバ経営とは、京セラ創業者である稲盛和夫氏が企業経営の実体験から編み出した経営手法で「経営は一部の経営トップのみが行うのではなく、全社員が関わって行うべきだ」という考え方が貫かれている。
この経営手法の最大の特徴は、採算部門の組織を5〜10人という小さな単位(アメーバ)に細分化し、それぞれがまるで1つの会社であるかのように独立採算で運営する事である。各アメーバの売上、利益、経費などの収支は、月が終わると直ちに集計され、全社員にオープンにされる。これにより、経営者はどの部署がどのくらい儲けているのか一目瞭然でわかるようになり、社員も自分がどれだけ利益に貢献できたかを知る。その結果、社員1人ひとりが利益を意識し、それを生み出す意欲と責任を感じるようになる。
各アメーバにはリーダーがおり、その人物が経営者のごとく収支の舵を取り、「売上を最大、経費を最小に」を合い言葉にメンバー全員で経営目標を達成する。
アメーバ経営のポイント
①部門別の独立採算制度を作るアメーバ経営では、1つのアメーバ(5〜10人のグループ)が、あたかも町工場や商店のように、自らが創意工夫しながら経営を行っていく。アメーバごとの経営内容が正確に把握できるよう、精緻な部門別採算管理の仕組みがつくられ、経営結果が全従業員にオープンにされる。このような経営によって、アメーバ経営では3つの目的を実現していく。
・市場に直結した部門別採算制度の確立
・経営意識を持つ人材の育成
・全員参加経営の実現
②組織を小さな単位に分け、役割と責任を明確にする
アメーバ組織は、チームの全員が自分たちの目標に向かって経営に参加していく事で、その成果を仲間とともに喜び、感謝し合う集団作りを目指す。会社全体での大きな機能を明確にした上で、それぞれの機能を細かく分ける。
③家計簿と同じように経営の数字をわかりやすくする
収入から、使った費用(支出)を差し引いて「残金=儲け(付加価値)」を算出する。これを部門内で働いた時間で割り、1時間当りの付加価値である「時間当り」を算出する。この時間当り付加価値を高め、追求する事で、採算の向上を目指す。採算表は家計簿のようにわかりやすい管理資料で、経理の知識がなくても経営の数字の意味を簡単に理解できる。
④採算管理のPDCAサイクルを回す
月次採算を追求していく過程で、リーダーとしての経営者マインド、部門メンバーの経営参加意識を高めていく。
⑤部門ミーティングを開催する
立てた予定を共有し、実行していくために、部門内のコミュニケーションを活発にし、メンバーのアイデアを生かしていく事が欠かせない。
⑥朝礼を開催する
全体朝礼と部門朝礼を実施する。朝礼の場を見るだけでその職場の状態がわかると言われるほど、職場の風土作りには欠かせないコミュニケーションの場である。朝礼の主な実施内容は「朝のあいさつ」「出欠確認」「実績進捗状況・予定報告」「連絡事項」「経営理念手帳の輪読」。
⑦コンパを実施する
アメーバ経営では、会社全体でのベクトル合わせや、各メンバー内のまとまりが重要となる。そのためにも社内において、お互いが強固な信頼関係を築いていく事が欠かせない。お酒を飲みながら、胸襟を開いて、日々の仕事における悩みや夢を本気で語り合う場がコンパである。
部門ごとの利益を見える化する
どの企業でも、売上拡大と経費節減は追求している。しかし、採算を細かく見られる仕組みにはなっていない。アメーバ経営を導入すると、製造部門でも利益が見えるようになる。各部門の採算を明確にするために「社内売買」という独特の仕組みを用いる。社内売買とは、各アメーバを1つの会社のように位置づけ、アメーバ間で製品などが動くときは、社内売買があったとみなす仕組みの事である。アメーバの総生産高は、社内の別のアメーバに販売する「社内売」と、社外に販売する「社外出荷」の合計から、「社内買」を引いたものとなる。
アメーバ経営における経営指標は以下の通りとなる。
・営業部門
販売手数料 − 経費 = 差引収益
差引収益 ÷ 総労働時間 = 時間当り付加価値
・製造部門
総生産高 − 経費 = 差引収益
差引収益 ÷ 総労働時間 = 時間当り付加価値
アメーバ経営では、人件費を経費に含まない。その代わり、差引収益を総時間で割って算出する「時間当り付加価値」という指標を用いて利益の状況をつかむ。
利益責任を負う部門を明確にし、その利益を社員全員で協力して増やしていく。これがアメーバ経営の目的である。
人間力を高めるための教育を行う
同じような製品を作っても、儲かる会社と儲からない会社がある。その差は、明らかに人間の差である。アメーバ経営でも、長期的に見るとリーダーの差が顕著に表れる。結束力の強いチームと、リーダーの言う事を全く聞かないチームとの業績の差は歴然としている。そこでアメーバ経営を導入する際には、人としてどうあるべきか、他人からついていきたいと思われるような人間になるにはどうしたらいいのかという事に関して、リーダー教育を含めた理念(フィロソフィ)教育を重点的に行う。経営者と社員の人間力を磨いて、そこにおいては他社に絶対負けない状態をつくり出す事が、企業の競争力を高め、長期的に安定経営を続けていく事に直結する。
フィロソフィとアメーバ経営は車の両輪であり、一体となって機能する。京セラフィロソフィの代表的な項目に「人生の方程式」がある。これは「人生・仕事の結果」は「考え方×熱意×能力」という計算式で表される。この方程式から言える事は、考え方が一番大事で、能力が高くなくても、考え方次第で、結果を残す事ができるという事である。京セラフィロソフィの例には以下のものがある。
・心をベースとして経営する
・利他の心を判断基準にする
・人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力