電子書籍が主流となる
読書はテクノロジーの進歩とともにある文化だった。すべてのテクノロジーがそうであるように、読書という文化も進化と変化を繰り返してきた。我々が子供の頃に本を読む事を覚えた時には、既に印刷技術は基本的な進歩を終えていた。しかし電子書籍の技術はいま、再び急激な進歩の途上にある。これからはさらに電子書籍が増え、紙の本は減少していく。読者はデジタルの世界に移行し、出版社にとっても電子書籍が収支の面で魅力を増していくだろう。電子書籍の方が単純にコストが低いからだ。
紙の本は生き残るだろう。だが紙の形で出版される本の大半は、おそらくメディアや広告で宣伝される一部のベストセラーだけになっていくはずだ。あるいは、限定ハードカバーや古書など、コレクションとしての紙の本も人気を博し続ける事が予想される。しかし、今後の主流になるのはやはり電子書籍だ。
紙の本が減る
電子書籍を買う人が増えるほど、紙の本を選ぶ人は減っていくはずだ。検索機能などの紙の本にはない利点が多い電子書籍には、一度その便利さを味わったら抜け出せなくなる魅力がある。やがて電子書籍の利点がすべてを凌駕し、紙の本から電子書籍への大移動が起こる時がくるだろう。電子書籍が普及していくにつれ、紙の本が廃れていくのは避けられないだろう。
そうなるとまず考えられるのは、家にある紙の本を売る人々が増えるという事だ。10年もすれば大量の古本が市場に出回るだろう。やがては古本が供給過多になる。今は10〜20ドルで売れる本でも、数年後には10〜20セントでしか売れなくなるだろう。
電子書籍への移行が進み、出版される紙の本が減って売る本もなくなっていく。実店舗を持つ書店の衰退にさらに拍車がかかるだろう。
読書文化は確実に変化していきている。今は大学内の食堂や喫茶コーナーで、本を読んでいる学生などまず見ない。紙の本を読んでいても他者とつながる事はできないのだから、学生が本ではなくフェイスブックに夢中になる事自体は悪いとは思わない。
この先電子書籍が普及していけば、人々は必ず読書の世界に戻ってくるはずだ。電子書籍の最大の意義はそこにある。電子書籍になったからと言って、読書の本質は変わらない。
私達読者は本の魅力を見直し、読書熱を再燃させなければならない。本はいま、テレビや映画、ビデオゲームに押されて人々の関心が向かなくなっているが、再び脚光を浴びようとしている。電子書籍の登場によって読書はかつてないほどの魅力を獲得できるはずだ。本を開いたまま他の読者や友人、家族と物語を共有できるのが電子書籍だ。電子書籍革命によって、読書に新しい命が宿ろうとしている。
本の未来
今後は紙の本と電子書籍の境界線は徐々に消えていく事が予想される。現在のところ、電子書籍は紙の本の性質を踏襲する形を取っている。しおりやメモ機能の他、ページめくりやページ数といった概念も紙の本の特質を受け継いでいる。
しかし、電子書籍は、質感や手触りの点では紙の本に遠く及ばない。いかなる電子書籍リーダーも、紙の本の活字の質感や精密さを完全に再現する事はできていない。また、紙の本の具体性には、作者の考え方や物語の重厚さを効果的に伝える事ができるという側面もある。ざらついた手触りの紙もあれば、滑らかな手触りの紙もあり、ページにしわが寄っている事もある。そんな紙の手触りがあるからこそ、読者と本の結びつきが強固になり、本の世界に没頭できる。
いくつかの点では紙の本が電子書籍より優れているのは間違いない。食事が人を作るように、読書も人を作る。電子書籍の登場によって読書の形態が変われば、私達の脳の配線や仕組みも変わっていく。
電子書籍のメリットは、読んだ本を保管して整理できる点やソーシャル機能によって他者とつながりを持つ事ができる点だろう。未来の読書は変わる。例えば本を読んでいる最中に、その本の内容に関する友人や家族の感想やコメントなどを確認できるようになるかもしれない。
本はなくならない
本は様々な用途を持っている。エンターテインメントとして、何かを学ぶため、気を紛らわすため、着想を得るため。しかし文化としての用途をあえて1つの絞るなら、本の最も大事な役割は「教育」であろう。本は人間の知識、あるいはそれ以上のものが詰まった宝庫だ。
本は人間にとって不可欠な文化であり、決して消える事はない。そしてデジタル時代を迎えた今日、さらに発展させる事ができる。未来の読書をあえて予想するなら、映画やビデオゲームに作者自身の本来的な意図を組み合わせたような形になるだろう。
紙の本は姿を消す
電子書籍は今まさに急速に普及しつつある。インターネットが普及に要した期間が10年だった事を考慮すると、電子書籍も2016年頃には全体の半数に普及するという見方が無難だろう。
16世紀の富裕層は、総じて印刷技術を使って作られた本は読みたくないと考えていたという。それまでは文章を手書きで書き写した「写本」が本の主流だったのだが、その写本と比べ、印刷された本は人間味に欠けると考えていたためだ。印刷された本は写本よりも価格は安かったが、誕生当時はそういった理由で受け入れられなかった。印刷工たちは文字の規則性と正確性を落として手書きの雰囲気を再現するために、わざと活字の書体に変化を付けたりする事さえあったという。
だが、写本は既に消滅しつつある。そして今から数十年もすれば、写本の後を継いだ紙の本たちも一般家庭から姿を消す事になるだろう。