「おいしい」は国境を超える 食ビジネスの海外挑戦

発刊
2025年6月26日
ページ数
208ページ
読了目安
280分
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食ビジネスの国際化を考える
「食の国際化」をテーマとして、日本企業の海外進出の事例や、海外戦略などを俯瞰して紹介している一冊。

その土地のローカルな食が、どのようにしてグローバルに展開していくのか。食の国際化がどのようにして広がっていくのか、その中で企業はどのようにして、海外に展開していくのかといったことを、産業という視点において知ることができます。

食の国際化とは

本来はそれぞれの地域や国特有の食べ物であったものが、人の移動とともに広まってきたのが食の国際化である。スイスを代表するグローバル企業であるネスレは「食の巨人」と言われ、世界の隅々までネスレブランドの食品が浸透している。ネスレの基本戦略は加工食品であること、そして食はローカルなものであることの追求である。これを軸に自社開発した製品や、元々その地で生まれた食品会社を自社に取り組むことによって発展してきた。

基本的に食はその地の生活文化の中から生まれたローカルなものであるが、それを他国で広めようとすると、さらにその地に適合したローカルな味にしなければならない。その地にあった食べ方や食材を使ってローカルニーズに適応することで根付く。その地域で生まれた食べ物であってもそれが海外に広まると微妙な味の違いがある。

 

国際化には「入る国際化」と「出る国際化」の両面がある。入る国際化でみると、ハンバーガーやピザ、パスタなど、海外生まれの食が日本に入り、日本の食文化に同化しているものがたくさんある。出る国際化の代表は寿司であり、さらに醤油や調味料、インスタントラーメン等は海外に工場を持ち、今やグローバルな食品の1つとなって流通している。

 

食はビジネスとしてなぜ海外進出するのか。これは、市場があるからである。今、日本では少子高齢化が進行し、人口減少の一途を辿っている。その中で、人が最大のマーケットである食ビジネスは成長の糧をどこかに見つけなければならない。それが海外市場における食の国際化の始まりである。

 

日本の食ビジネスの国際展開

日本の食ビジネス会社で1兆円規模の企業は、味の素、日本ハム、山崎製パン、明治HD、マルハニチロ、伊藤ハム米久HDの6社である。また、アサヒビールは2兆円、キリン、サントリー等は1兆円規模である。これらの日本のビール会社は、海外企業の買収によってグループ化してきた点が共通している。国内の人口減少が進む中で、海外戦略をどう進めるのか、直接投資の形で海外生産するのか、他の方法で海外進出するのかがポイントである。

海外で現地生産する場合は、それだけの市場規模があるかどうかが課題である。酒やビールなどは国や地域に根差したローカル事業である。その国でのマーケットが限定的な場合は生産工場などの直接投資の形は取らず、海外との提携や企業買収による外部資源のグループ化を行う。

 

食ビジネスで積極的に海外進出を行なっている会社は味の素、日本ハム、山崎製パン、明治、伊藤ハム、マルハニチロ、日清製粉、日清食品、キッコーマン等であり、これらは基本的に内的成長戦略である。

日本企業の中で総売上に占める海外比率で、ダントツなのはキッコーマンと味の素。次に日本水産、日清食品、日清製粉、カルビー等が続く。これらの企業に共通することは、早い段階から海外に工場を作り、現地の市場ニーズに適応した食ビジネスの国際化を図ってきたことである。

 

日本の食ビジネスはグローバルに見ると上位にランクインしていない。これは製造業である自動車やエレクトロニクス、精密機械等の分野がグローバルにみても上位にランクインされていることからみると対照的な産業特質である。他方で食ビジネスの数では、日本の食ビジネスはアメリカに次いで世界2位である。これは、日本の食ビジネスは多くの場合、ファミリー企業として全国各地方に小規模の形で発展しているからである。

 

日本の食ビジネスにおける国際化度は、製造業における国際化度と比べると高くない。この理由の1つは「マネジメント力」の蓄積の差である。アメリカのファストフードに代表される食ビジネスがグローバル展開できるのは、食そのものの魅力というよりもマネジメントの方法である。食文化、宗教、言語、習慣等が違う多民族社会で仕事を行うには、各々の職務を体系化し、仕事の仕組みをつくる必要がある。この仕組みをつくってきたのがアメリカの経営の特徴である。

 

食の第3次産業の国際化

今日の食の国際化で重要なのは第3次産業の領域である日本の「食」への海外からの関心である。つまり、日本の食を食べること、レストランに行くことを考えることである。特に寿司は世界で普及し、日本の食のアイデンティティとなっている。かつて、海外で寿司レストランが開店するのは、主に高所得国であるアメリカであった。ところが今、日本の食ビジネスが注目しているのはアジア・中国市場である。日本の食品、食べ物は相対的に高いが、所得水準の向上と共に次第に外国の食への興味が高まりつつある。

 

多くの飲食サービスなど第3次産業は、製造業と違って普遍的に大量生産することができない。食を提供する側と提供される側、人と人の関係の中で事業が構築されていくため、基本は進出した現地でいかに優れた人材を確保するかが事業成功の鍵となる。