ゲームクリエイター 宮本茂 世界を変えたゲームづくりの思想とアイデア

発刊
2025年7月8日
ページ数
288ページ
読了目安
385分
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宮本茂のゲームデザイン哲学
『マリオ』や『ゼルダ』をはじめとする数々の人気ゲームを生み出してきたゲームクリエイター宮本茂のゲームづくりが解説されている一冊。

宮本茂の過去のインタビューやコメント、ゲーム作品などから、どのようにゲームデザインを考えてきたのがか書かれています。人気ゲームをつくる側の人間の思考を理解できる内容になっています。

宮本茂のゲームデザイン哲学

ゲームデザイナー宮本茂がゲームづくりの世界に入ったのは、幸運な偶然からだった。父の伝手をたどり、ゲームではなく工業デザイナーとして1977年に任天堂へ入社。ゲームデザイナーとして最初の挑戦だった『ドンキーコング』は目覚ましい成功をおさめ、『マリオ』『ゼルダ』『ピクミン』などへ続いていく最初のヒットシリーズとなった。この最初の成功こそ、ゲームデザイナー、プロデューサー、ディレクター、ハードウェア開発者として任天堂で40年以上のキャリアを歩み、業界全体へと影響を与えていくきっかけだった。

 

これまで宮本はゲームづくりの指針について、以下の要素を語ってきた。

  • 子供時代や喜びとの強い結びつき
  • 自然や自然界からの影響
  • 「共感」へのこだわり(プレイヤーとの繋がりを持ってデザインし、プレイヤーがゲーム体験に没入できるようにする)

 

宮本のデザインビジョンは、「誰もが楽しめるエンターテインメント」と形容できる。彼は男性プレイヤーという従来の顧客のみならず、とりわけ女性、子供、主婦をターゲットにしてゲームをデザインする。彼はシンプルに、どの世代のユーザーも楽しめる新しい空間としてビデオゲームをつくっている。

宮本が開発の時に注目しているポイントは、ゲームの個々の要素ではない。そのゲームの楽しさの核とは何なのかを考えることである。それを考えるために、ゲームの個々のパーツではなく、その時ゲームをプレイしている人の顔をずっとイメージしている。

 

宮本のデザインの大きな特徴となっているのは「自然への愛」だ。彼は幼少期に森を散策し洞窟を探検したエピソードをたびたび語ってきた。この幼少期のノスタルジーは、生命を宿したスピリチュアルな自然や、日本の神道における自然の表現と結びついたものだと考えることができる。

 

既存のアイデアを足場として改良を重ねる

宮本は、自身のものであれ他者のものであれ、既存のアイデアを足場として次なる開発サイクルをスタートさせ、元のアイデアを改良していくことが多い。宮本はよく「延期したゲームは最終的に良くなるが、悪いゲームは永遠に悪いままだ」といった趣旨の発言をしている。任天堂は、進行しているプロジェクトでも面白くなければ大幅に変更して仕切り直すのである。

 

宮本茂がゲームの制約や可能性に対する感覚をどこで身につけたかを断定するのは難しいが、宮本のデザインを形づくる上で大きく影響したのは、ゲーム体験を面白いものにするべく、師事した横井軍平がハードウェアとソフトウェアの両方に目を配った点だ。また、宮本が実際にゲームをプレイし、何が面白いのかを学び、師である横井と意見を交わし合ったことも影響している。

ゲームをプレイし分析することを通じて、宮本は工業デザインにおける優れた実例を取り入れながら、美的感覚と「改良を重ねる開発プロセス」を新たなレベルへと引き上げていった。

 

空間と結びついた物語

宮本は最初から自分がデザインするゲームに物語を取り入れていた。彼は「ゲームをつくるにあたって頭にあったアイデアの1つは、ゲームのコンセプトをよりよく理解してもらえるよう、少しだけストーリーを盛り込むことだった。漫画と同じようなことだ」と語っている。

物語的なアプローチに加え、空間を活かした物語表現もゲームデザインにおける宮本の功績の1つだと言える。『ドンキーコング』において、各レベルは互いに結びついた連続的な物語の一部である。こうしたレベル間のつながりは『スーパーマリオ』シリーズにも見てとることができ、『ゼルダ』でとりわけ顕著になっている。『ゼルダ』は空間を活かして物語が進んでいくもので、特定の場所に行かないと話が進まないようになっている。ゲーム内で何をすべきかがすぐに明らかになるのではなく、ストーリーとのインタラクションによってのみ物語が展開されていく。

宮本は従来の直線的な物語構造を、ゲーム空間と結びつけた空間的な物語に変換した。その空間でプレイすると、物語に基づいて物語が展開し、ゲームの世界に自分自身を投影できるのだ。

 

ゲームから体験へ

宮本によれば、エクスペリエンスデザインに関心があるという。人との交流を含め、楽しくて面白い体験をしてもらいたいと願っている。それが最もよく表れているのが『スーパーマリオカート』以降の作品だ。物語的な構造はない代わりに、マリオ世界のキャラクターを使って、マルチプレイで楽しめる面白いレースゲームがつくり上げられている。

 

彼は、プレイヤーの創造性や積極的な参加に重きを置いた体験デザインを組み込むべく、様々な作品で実験を試みるようになっていった。そうした方向へと進むにつれ、オブジェクトやストーリーに重きを置かなくなっていき、プレイヤーたちがゲームコミュニティの中で自由に遊び回れる大枠を提供していくスタンスに移行していった。