最も価値があるのは「顧客データ」
多くのDXプロジェクトが期待した成果を出せずにいる根本的な原因は、DXの「土台」となるべき最も重要な資産を見誤っていることにある。
企業活動から得られるデータには、次の3つがある。
- 顧客データ(顧客属性、行動履歴、引き合い履歴、購買履歴、問合せ履歴、クレーム履歴など)
- 社内状況データ(原価情報、生産リードタイム、品質情報、各種工数情報、仕入れ先情報、組織情報など)
- 業績データ(売上、原価、総利益、間接費用、営業利益など)
これらのデータの中で、企業にとって最も価値のあるデータは「顧客データ」である。その理由は以下の3つ
- 顧客データがあってはじめて、社内状況データや業績データが生まれる
- 自社のオペレーションの大半が顧客データに紐づいている
- 顧客データが最もAI活用や未来予測につなげやすい
多くの企業は「業績データ」を最も重視しているが、これは結果に過ぎないので、プロセスとしての「社内状況データ」をデジタルによって見える化している。しかし、ビジネスプロセスの最初の起点である「顧客データ」の視点が抜け落ちている。
DXの基本
DX・データ経営を実行する上で、必ず押さえておくべき「ビジネスプロセス(仕事の流れ)」は、次の3つの分類することができる。
- フロントオフィス:OtoO(オポチュニティtoオーダー)の領域
- ミドルオフィス:OtoC(オーダーtoキャッシュ)、PtoP(プロキュアーtoペイ)の領域
- バックオフィス:RtoR(レポートtoレコード)の領域
ERPや基幹システムは、「受注した後」のプロセスであるミドルオフィスやバックオフィスしか対象領域としていない。従って、多くの会社でフロントオフィスの領域が、自社のシステムから抜け落ちている。
「フロントオフィス」「ミドルオフィス」「バックオフィス」の各ビジネスプロセスにおいて、それぞれのプロセスに一貫して対応できるデジタルツールを導入しないと、DX・データ経営は実現できない。
しかし、「フロントオフィス」の領域は、同じ業種・業界の会社であっても、管理項目や管理の仕方そのものが異なる。そのため、事実上「パッケージソフトウェアに仕事の進め方を合わせる」ことが不可能である。現実問題として、仕事の進め方にソフトウェアを合わせることが必要になる。
今までのシステム開発の方法は、「フルスクラッチ開発」あるいは「パッケージ導入」のいずれかだった。しかし、「フルスクラッチ開発」は、開発期間と費用がかかる。「パッケージ導入」は、必ずしも自社に合ったシステムにならない。これに対して「ローコード・ノーコード」は、レゴブロックのように自由にシステムを構築できる。そのため「ローコード・ノーコード」は、フロントオフィス領域では重宝される。
このフロントオフィスを主な対象領域とするローコード・ノーコードのデジタルツールのことを「CRMプラットフォーム」という。これは、「顧客データ」の価値を最大限に引き出し、経営の力に変えるための最強の器になる。
CRMプラットフォームの導入が必須
CRMプラットフォームは「顧客」を軸に業務を統合・最適化する点が大きな特徴である。CRMでは、顧客情報を中心に営業、マーケティング、サポート、カスタマーサービスといった多様な業務を一元管理できる。
顧客を軸にすることで、次のことができるようになる。
- 営業部門:過去の取引履歴や顧客の嗜好を踏まえた提案が可能となる
- マーケティング部門:顧客セグメントに応じた効果的なキャンペーンを展開できる
- サポート部門:顧客対応履歴を把握することで迅速かつ的確なサポートが可能になる
これにより、部門を横断した一貫性のある対応が可能となり、顧客満足度やロイヤルティが向上する。また、CRMを通じて顧客データを集約・分析することで、隠れたニーズを発見し、新たなビジネスチャンスを創出することも可能である。顧客を中心に据えることで、単なる業務の効率化にとどまらず、企業全体の成長戦略を強化することができる。
CRMプラットフォームの要件として重要なのは、以下の点である。
- SFAの機能を含めて、顧客、見込み顧客、商談、行動を一元管理できること
- 顧客に関するデータを集客し、それを元に営業やマーケティング、サポートなどの各業務を最適化すること
- 顧客情報を他の業務システムとスムーズに連携させること
この観点で見ると、セールスフォースとZohoが代表的な存在である。
AIを十分に活用するためには、適切なデータの蓄積と、それをAIに連携できるプラットフォームが必要である。Zohoやセールスフォースは、AIが標準装備されていることで特別な開発なしにデータを活用した自動化・最適化が可能である。これにより営業・マーケティング・サポート活動が効率化され、収益向上に直結する。