ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論

発刊
2018年7月12日
ページ数
336ページ
読了目安
444分
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企業価値の最大化を考えよ
目先の売上や利益を優先するのではなく、将来生み出すキャッシュフローを最大化するためのファイナンスの考え方が重要であると解説する一冊。
ファイナンスの基本的な考え方を紹介しています。

「PL病」という病

「PL脳」とは、目先の売上や利益を最大化することを目的視する、短絡的な思考態度のことである。目先の損益計算書(PL)の数値の改善に汲々としすぎるあまり、大きな構想を描きリスクをとって投資するという積極的な姿勢を欠き、結果として成長に向けた道筋を描くことができていないのが、現在の日本企業である。

「PL脳」に基づく経営は、高度経済成長期には一定の合理性を持っていた。直線的な成長を続け、将来のビジネス環境についての予測可能性の高い経済環境下では、昨年よりも良い業績を作るために改善を続ける「PL脳」が、十分有効に機能した。ところが、社会が成熟化し、かつてのような直線的成長が望めない社会や、技術革新のスピードがかつてなく速く、既存のビジネスが急速に陳腐化しかねない不確実な事業環境においては、より意志を持った主体的な経営の舵取りが求められる。「PL脳」では、21世紀の事業環境を御することはできない。

成熟化した不確実な時代を切り拓くパラダイムとして、必要な考え方が「ファイナンス思考」である。

ファイナンス思考とは

ファイナンスとは、会社の価値を最大化するために、外部からの調達や事業を通じてお金を確保し、そのお金を事業への投資や資金提供者への還元に分配し、これらの経緯の合理性をステークホルダーに説明する一連の活動のことである。

「ファイナンス思考」とは、こうしたファイナンスを扱う土台となる考え方である。「会社の企業価値を最大化するために、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」のことであり、より広く解釈すれば、「会社の戦略の組み立て方」とも言える。

「ファイナンス思考」は単に会社が目先でより多くのお金を得ようとするための考え方ではなく、将来に稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとする発想である。

未来の社会を支える新たな産業を創出するためには、モノづくりの精緻さや技術の磨き込みだけではままならない。ビジネスに対する考え方のOSを根本的に入れ替え、「PL脳」から「ファイナンス思考」にアップデートすることで、「21世紀型の日本的経営」を再構築することが必要である。

ファイナンス思考とPL脳の違い

ファイナンス思考 ↔︎ PL脳

評価軸:企業価値(将来CFの総量) ↔︎ PL上の数値(売上、利益)
時間軸:長期、未来志向、自発的   ↔︎ 四半期、年度、他律的
経営アプローチ:戦略的、逆算的   ↔︎ 管理的、調整的

ファイナンス思考では、会社の施策の意義を「その施策が将来にわたって生み出すキャッシュフローの最大化に貢献するのか」という観点から評価する。

ファイナンスの4つの側面

会社の企業価値を最大化するためのファイナンスには4つの機能がある。

①外部からの資金調達
事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達する。

②資金の創出
既存の事業・資産から最大限にお金を創出する。

③資産の最適配分
築いた資産を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配する。

④ステークホルダー・コミュニケーション
その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する。

ファイナンスの本質

BS(貸借対照表)を見ると、お金の流れがわかる。

①負債や純資産として調達したお金が資産になる
②資産を活用した事業で利益を創出する
③利益は純資産の一部となる

会社は手元の資金を既存の事業に振り向けていくのか、新規の事業や資産の投資、買収などに活用するのか、それとも株主や債権者へ還元するのか、といった判断を比較検討する必要がある。

ファイナンスの本質は、こうしたお金の循環を健全にコントロールしながら、段階的により多くのお金を生み出す仕組みを作ることである。