時間があるから工夫をサボる
20代の頃、休日もたまにオフィスで働いていた。先輩たちと飲んだ時、日曜日に部長と遭遇した話をすると、先輩たちも同様に口を揃えた。当時は休日でも働く人が多かった。その中で、J先輩は「俺は経験ないな」と言い放ち、「時間に甘えるなよ」と声をかけられた。後にJ先輩は40歳で部長になり出世街道を駆け抜けていった。
時間に甘えた働き方を続けて30代半ばで行き詰まり、40歳で転職をして気づく。時間があるから工夫をサボる。制限があるから考えて成長する。
あなたの苦労を誰かが見ている
担当するお客様が業績不振に陥った。「値下げをしてくれ」「支払いを遅くしたい」などの後ろ向きな依頼ばかり増えた。売上が右肩下がりでも毎晩遅くまで対応を続けたが、それでも状況は悪くなるばかりで、モチベーションはダダ下がり。働くのが辛くなった。
そんな時、役員のOさんから担当まで50人が参加する職場の飲み会が開かれた。上司から「おまえ、Oさんに挨拶してこい」とこづかれた。「最近はいいところが無くて、申し訳ありません」と言うと、Oさんはスッと居住いを正して僕の顔を見据えて、言葉を継いだ。
「知ってますよ。苦労していると聞いてます。周りを気にする必要はないですよ。真面目にやっていると聞いています。それでいいんです。うまくいかない時に諦めないで欲しい。必ず誰かが見ています」
涙がこぼれそうになった。もう少し頑張ってみようと心の中でつぶやく。
1年後、地方に左遷されてアラサーから下積みを再開した。ふてくされて時間を無駄にしないことだけを心がけた。誰かが見ているかもしれない。今できることを精一杯やろう。
大切なのは捧げた時間じゃない
会社は去年から、みなし残業制になった。「毎月、必ず20時間分の残業代を払うからその範囲で仕事をしてね」ということらしい。少なくとも20時間分は働かないとと思っている僕を尻目に同期のKはサッと仕事を上がる。
翌日、Kに残業時間を聞くと月に10時間くらいとのこと。
「オレら、月に20時間分の残業代をもらってるだろ。10時間で大丈夫なのか?」と言うと、Kは哀れそうに「みなし残業代はあくまで20時間以内に残業を抑えろってことだ。20時間は残業しろじゃないぞ。20時間の残業代をもらって早く帰りながら成果を出す。それで会社もオレもハッピーだろ。お前は残業しなきゃいけないと思考がこり固まってるんだよ」と言う。
この経験から学んだことは、自分で自分を縛ってはいけない。大切なのは捧げた時間じゃないということ。自分の中に思い込みがあることに気付かされた。
自分の常識は他人の非常識
海外に赴任してしばらくして、6人のチームを引き継ぐことになった。一癖も二癖もあるメンバーが揃い、その中でもK国出身のAさんに振り回されることになる。
チームを引き継いで1ヶ月後、Aさんが相談にやってきた。最近は品不足が続いており、営業チームでは乏しい在庫を融通し合っているが、Aさんは在庫を分けてもらう依頼を断られるらしい。
メールの書き方や在庫を分けてくれやすい人を整理してAさんに共有した1週間後、Aさんが怒りをぶつけてきた。「教えてもらったやり方、誰も返事をしてくれませんよ! おかしいじゃないですか」
Aさんの話を聞くと、相談メールを送った後、返事が来ないと、1時間待って催促する。返事が来ないと、1日に3、4回は催促するという。
「相手だって忙しいんです。そもそも在庫を分けてもらうのは当たり前じゃないですよね」とAさんを諭し、何より丁寧な姿勢で、メールをしてから1日は催促を待つことを伝え直した。
自分の常識は他人の非常識。特に文化が違うなら要注意。思い込みは失敗のもと。自分の常識を疑う大切さを改めて感じた。
ぼくは今日も定時で帰る
18年間、初めて勤めた会社でがむしゃらに働いて、行き詰まった。Xやインスタを見ると、世の中は起業やフリーランスを賛美する声で溢れているが、会社員ではダメなのだろうか。会社員の日常にも価値のある気づきや学びは溢れているし、成長もできる。
40歳で転職して、もう1つ気づいたことは「人は時間がないと気づくことすらできない」ということ。月に80時間の残業をこなしていた頃、日々の雑事に忙殺されていた。そして行き詰まり「残業をしない」働き方に変えた。定時で帰るスタイルにしたことで、自分のこと、人生のことを考えたり、発信したりすることができるようになった。