With AIな状態に進むために必要なこと
ChatGPTやGPT-4などの生成AIは、「人間がプロンプト(指示文)を与えるとAIが応答する」という一方向のやり取りである。これはAI側が自律的にアクションする構造にはなっていない。それに対して、AIエージェントという考え方では、AIが事前に決められた目標やルールを把握し、必要な情報やツールを自ら活用してタスクを実行するまでを担う。生成AIとの大きな違いは、この能動性と自律性にある。
こうしたAIエージェントが導入されると、仕事の仕方が一変する。そのため、AIが当たり前に働いてくれる前提で業務プロセスや役割分担を組み直す必要が出てくる。With AIな状態へと進むためには、単なる技術導入では済まない。業務プロセスの再構築、データやツールのインテグレーション、従業員のリスキリングや評価制度の見直しなど、あらゆる要素が絡み合う。
AIイネーブルメントの肝
AIと協働し、自社のワークフローや組織・カルチャーを丸ごとアップデートしていくための一連のアクションを「AIイネーブルメント」と呼ぶ。単に技術を導入して終わりではなく、経営層と現場が一体となってAIが自然に機能する土台を整えることを指す。
企業が「With AI時代」を迎え、AIを組織全体で機能させるには、以下の3つの視点からアップデートを図らなければならない。
①テクノロジーのアップデート
- サーバーやクラウド、APIを整備し、GPTなどのモデルを使える環境を用意する。
- セキュリティやガバナンス対策を施し、社内のデータを安心してAIに渡せるようにする。
②ワークフロー・業務のアップデート
- 業務プロセスを前提に「AIをどこで使うか」を設計し直す。
- 生成AIの提案を業務フローに組み込み、人間の意思決定をどの段階で行うか決める。
③ユーザー(従業員)の知識やスキルのアップデート
- 単なる技術研修だけではなく、「AIを使うと仕事のあり方が変わる」ことを全社員が理解する。
- 具体的な使い方のトレーニングやコミュニティ形成、評価制度の見直しなど。
これらが総合的に機能しないと、「ライセンスや環境はあるけど、誰も積極的に使わない」という事態に陥る。
AIイネーブルメントを支える5つの要素
AIイネーブルメントを推進する上で特に重要となる要素は、次の5つである。
①Strategy:戦略の策定
経営層が描くビジョンとAI技術の進化を結びつけるロードマップを作ることが鍵となる。「人間とAIそれぞれが担う業務比率」が、企業の新たなKPIになりうる。
AIの導入に成功している企業は、AI関連リソースの約70%を人材・プロセス側に投資しているという。「人+AI」でこそ企業価値を最大化できる、というビジョンをトップが明確に打ち出すことで、AIイネーブルメントに取り組める雰囲気が生まれる。
②Operation:業務プロセスの再設計と実行
AIエージェントを導入するにあたり、どの業務が本当にAIに適しているかを見極める必要がある。すべてをAIに丸投げしようとしても、データの不備や例外対応の多さ、倫理的リスクなどで挫折しがちである。それを防ぐために以下が効果的である/
- 定型度が高く、データが豊富に揃っている業務から導入する(コールセンターFAQ、在庫、購買処理など)
- RPAで部分自動化していたところをエージェント化で全体最適に移行できないか検討する
- 人間が最終承認する業務フローとの組み合わせルールを明確にし、混乱を防ぐ
- PoCで成功体験を積み、他部門へ展開する段階的導入
③Platform:生成AI・AIエージェントが動く基盤とアーキテクチャ
どのような技術インフラやデータ連携を整えるかが重要である。LLMを社内でどう活用するか、APIをどう繋ぐか、さらには既存システムとの相互接続などが含まれる。
- AIエージェントをどのような環境で利用するか
- RPAなど他のツールとの連携、ナレッジベースの構築
- 能動的なAIエージェントに必要なアーキテクチャは何か
- 機密情報/プライバシー対応
④People:組織的浸透と人材のスキル開発
「AIがどう動くか」だけではなく、「人がどのようにAIと協働するか」が同等以上に重要となる。優れたエージェントを用意しても、現場の従業員が活用しないままでは絵に描いた餅になる。
- リスキリング
- 組織文化の醸成
- 評価制度/人事制度との連動
⑤Governance:ルール・ガバナンスの策定
AIエージェントが自律的に動くほど、企業としての責任やリスクを明確に管理しなければならない。以下のような備えが必要になる。
- データプライバシーや情報漏洩対策
- エージェントが誤った判断を下すリスクへの対処
- 法的/倫理的懸念に対応するためのポリシー策定