ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界

発刊
2025年1月17日
ページ数
256ページ
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307分
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中国経済の根本的な問題点
中国不動産バブルの終焉と、EVや太陽光などの新興産業の成長は、「供給能力の過剰と需要不足」という、中国経済の根本的な問題に端を発する。供給サイドを重視し、国内需要拡大に積極的ではない中国政府によって、もたらされた現在の中国経済の問題について、2つの側面から解説されています。

中国の過剰生産によって、大きな問題となっている米中貿易摩擦の根本的な原因を理解できるとともに、中国経済によって影響を受ける世界経済の動向のことがよくわかります。

中国不動産市場の問題

不動産価格の低下から生じた経済不振によってピークアウトを迎えた中国経済には、これまでにない大きな不確実性が生じている。このことが中国社会全体の閉塞感を生んでいる。

 

中国の不動産バブルの始まりは1990年台初頭にまで遡る。そこから中国政府の価格コントロールによって、住宅価格は年収の7〜8倍あたりの水準を保ったまま、商品住宅販売額は、1人当たり可処分所得とほぼ同じペースで、一貫して右肩上がりを続けてきた。しかし、商品住宅販売額は、2021年15兆元をピークに急落し、2023年は約3割減の10兆元台に縮小。2024年も下落は止まらず、1〜9月の累計は前年同期比-24%となり、ピーク時の半分ほどの見込となる。

不動産は中国経済のGDPの30%を占める。不動産市場の低迷によって、大手ディベロッパーの恒大集団、碧桂園の経営危機が表面化した。さらに、国民の家計資産の内70%は不動産が占めているため、影響は個人消費にも波及した。

 

中国の不動産危機の背景には、短期、中期、長期のスパンを持つ、中国の不動産市場に歪みをもたらした3つの問題がある。

①コロナ禍以降の財政金融政策の歪み

コロナ禍の中国政府は、金融政策を積極的に緩和したが、財政政策が不十分だったため、需要が不足した。行き場を失った資金は、不動産市場に流れ、不動産価格の急上昇につながった。これに対して、中国政府は新たな規制を打ち出し、不動産企業に対し、債務削減義務を課した。

 

②都市化政策の失敗

中国政府は2014年に新型都市化と呼ばれる政策を打ち出した。これによって経済先進地域の東部よりも、遅れた中西部の住宅需要が増加するはずとの思惑から不動産投資が一気に拡大した。しかし、中西部の新型都市に実際に移住する人は少なく「幽霊タワマン」が量産された。

 

③合理的バブル

合理的な判断の積み重ねによって生まれる「合理的バブル」は、「ファンダメンタルズより高く取引される資産があり、その価値が年々上昇すること」と「成長率が金利を上回っていること」という2つが発生条件となる。この条件を中国経済は概ね備えていた。この背景には、2002〜2012年の間、投資が飽和状態にあり、資本が過剰に蓄積されたという状態がある。

さらに、このバブルに拍車をかけたのが、中国の公的年金制度の課題だ。中国社会では賦課方式の公的年金による老後の生活保障が十分ではなく、値上がりを続けるマンションの購入が公的年金に代わる老後の生活を保障する手段となってきた。こうした都市部のマンション需要が、資本蓄積の原因にもなってきた。

 

供給過剰を生み出す経済政策

現在、高付加価値のEV、車載用リチウムイオン電池、太陽光パネルからなる「新三様(新三大輸出製品」の輸出は、劇的な成長を続け、中国企業は高い世界シェアを握っている。

習近平政権は、成長実現のための重点対策として、国内の需要拡大、景気対策よりもイノベーションを重視している。その結果、高付加価値な製品が作れるという供給サイドの問題ばかり改善され、購入者不足という需要サイドの問題は解決されず、「新三様」にも、すぐに供給能力が需要を上回る生産能力過剰が見られるようになった。

 

様々な産業政策が中国国内のEV需要を拡大させ、それによって生じた消費ブームに「殺到する企業」の市場参入をもたらした。その競争は製造コストの低下につながり、ますます需要を拡大するという好循環を生んだ。一方で、現在のように国内市場の拡大が頭打ちになると、競争力をつけた企業の製品は海外に溢れ出していった。

 

供給能力の過剰と消費需要の不足

EVをはじめとする新興産業の成長と、不動産バブルの終焉はいずれも「供給能力が過剰で、消費需要が不足している」という中国経済が抱える根源的な問題に由来している。中国経済もこの問題には気づいており、早い段階から解決策を打ち出していた。それが、途上国・新興国への積極的な資金輸出「一帯一路」構想だ。中国国内で消費しきれない過剰な生産物は、海外に輸出する必要がある。

 

しかし、一帯一路構想は、長くは続かなかった。中国から新興国への資金フローは、2019年以降はマイナスに転じている。これは新たな融資額を償還額が上回ったことを意味する。この要因は次の3つである。

  1. 米国政府の保護主義的な政策による元安ドル高
  2. 発展途上国の債務不履行リスクの顕在化
  3. ウクライナ戦争によるロシア、ウクライナ、ベラルーシ等への融資回収リスク懸念

 

中国経済において、最終消費が大きく低迷することは珍しくないが、これまでは多くの場合、投資の増加がその穴を埋めていた。しかし、現在の消費の低迷の中で成長率を支えているのは投資ではなく、財とサービスの純輸出である。中国のような経済大国が、経済成長率を純輸出に大きく依存している状態は、貿易戦争を招き、持続可能なものではない。