自動販売機型にできない売り方を目指せ
近年、Eコマースのスタイルが大きく2つに分かれつつある。1つは「究極の自動販売機」の道で、もう1つは「究極の対面販売」の道。「究極の自動販売機」型は、低価格・送料無料・スピード配送・品揃え・ビッグデータを活用した高精度のリコメンドなど、便利さの価値を追求するスタイル。規模のメリットを強みとする、大企業に向く。
これに対して、「究極の対面販売」型は、接客コミュニケーション・店長の商品愛や専門性を活かした魅力的なコンテンツなど、楽しさの価値を追求するスタイル。オーナーシップがあり小回りの利く中小企業に向く。大企業によるEコマースが本格化する中で、中小企業が「自動販売機」型の道を進んでも勝ち目がなくなりつつあるのが昨今の流れ。したがって、消耗戦から抜け出すには、「究極の対面販売」の道を歩み、「自動販売機にはできない売り方」を考える必要がある。
「究極の対面販売」の道を歩むネットショップの取り組みは、もはや「ネット」だけにはとどまらず、リアル店舗やリアルイベントと連動したものも少なくない。
消耗戦を抜け出しているネットショップ
楽天市場の出店数は、今では4万店を超えている。いつの時代も店長さん達は「最近、競合増えたなぁ」と言う。努力が実って商品がランキングに入ると、それを見た同業者が「これが売れるんだな」と同じ商品や同種同等の商品の値段を下げてくる。
また、新しいお店は、オープニングセールとして「赤字でもいいからお店を知ってもらおう」とプロモーションをかけてくるので、すぐ価格競争になってしまう。そうやって売るモノを真似され、1円でも安くされて価格勝負を挑まれという競争が果てしなく続く。そして、消耗戦を繰り広げているところへ強大な外国企業がやってきたり、大手メーカーが直販ECサイトをスタートしたりする。それが今のネットショップを取り巻く状況である。
楽天市場で店舗運営をやっていて、その消耗戦を抜け出し、楽しそうに商売をしているお店がある。価格競争をしなくてよいスタイルを編み出し、長続きしているお店がある。
①レモン部
苗木店「花ひろばオンライン」が始めた、みんなでレモンを育てる「部活型の商品」。レモン部には月に1回、レモンの苗木の写真を撮り、成長日記を書いて顧問に送るというルールがある。部員が成長日記を出すと、お店のページにアップしてくれる上、顧問がコメントをつけてくれる。多くの部員は、自分の成長日記のページやレモンの写真をSNSにもアップするので、それを見た友達との間で会話が生まれ、クチコミが広まっていく。
②邪悪なハンコ屋 しにものぐるい
しにものぐるいのハンコは「認印」という既存要素と「ゆるキャラのイラスト」という既存要素から成っている。それが新しい組み合わせだからこそ「なにこれ欲しい」と思われる。
③筑前飯塚宿 たまご処 卵の庄
「普段使い卵20個、40個、80個、160個」というラインアップが並ぶ。卵のとなりに「小分け用モールドパック8パック」なるものが売られており、お客さんはおすそ分けする。
④ふろしきや
「ふろしきや」は「シルエットクイズ」というクイズ形式のプレゼント企画を行っている。風呂敷で何かを包んだ写真をアップして、「何を包んでいるでしょうか?」というお題を出す。
やってはいけない5つのこと
消耗戦を抜け出すためには、やってはいけない5つのことがある。
①売れているモノを売ってはいけない
人がモノを買うにあたっては「欲求の壁」と「比較の壁」という2つの壁がある。「欲求の壁」の手前にいる人は、そもそも「欲しいと思っていない」状態。そこで「欲しい!」と思えるようになる接客が必要になる。それによって欲求の壁を越えると、次は「比較の壁」が目の前にそびえ立ち、いろいろな視点から比較モードに入る。比較の結果、納得すると「これ下さい!」という。
「売れるモノを売る」という商売は、比較の壁の手前にいる「すでに欲しいと思っている人」を相手にする。ただ、そこは競合他社みんなが狙っているので、消耗戦になる。お客さんは欲しいものが決まっているので、一番条件のいいところが選ばれる。
まずはその商品のある生活のベネフィットを伝道するところからスタートし、その結果「欲しい」と思ってもらう。そして、「面白そうな世界を教えてくれた人」という関係性をつくっておけば、「あなたから買いたい」という理由で比較の壁を乗り越えてもらえる。
②ターゲット客を攻略してはいけない
お客さんというのは塊ではなく、1人ひとりの人間である。お客さんは「価値観を共有した仲間」。欲求の壁や比較の壁を越えてもらいやすくするため、コンテンツを充実させる。そして、買ってくれたお客さんに後悔させないことにフォーカスする。使い方のフォローやレクチャーをする。そもそも「買ってよかった」と思えるのは、コストよりもベネフィットが大きくなる時である。この式を成り立たせるには「コストを下げる」か「ベネフィットを上げる」という方法がある。消耗戦を抜け出すには、ベネフィットを上げなければならない。
③競合対策をしてはいけない
競合が増えて価格競争が激しくなってくるとどうするか。勝負をかけて、値下げをすると消耗戦に陥る。競合を見るのではなく、お客さんを見る。お客さんの期待値というのは、1回目が良かったらそこが次回の期待値になるので、高まり続ける。その期待値を超え続けられるかどうかは、昨日の自分より成長できているかによる。
④スケールメリットを強みにしてはいけない
少しずつ規模拡大する事に成功したとしても、圧倒的にスケールの大きい相手と比べると、規模の強みは打ち消されてしまう。そこで「大企業にはできない手間のかかること」をやる。
⑤勝つためのスキルを磨いてはいけない
長期的効率を優先し、お客さんとの信頼関係が深まってくると、新商品を出しただけで「あなたがいいと言うなら頂くわ」と買ってもらえるようになる、というビジョンが見えてくる。