深圳
昔の深圳はただの小さな漁村だった。しかし、1980年には30万人だった人口は、30年足らずで1,000万人を超えた。深圳の中国企業は、いくつかの部品の組み合わせで、リミックスするように製品を作れてしまう。山寨と呼ばれるやり方で、携帯電話をタバコのライターから金の仏像にまで組み込んでしまう。こうしたニッチな製品が成立するためには、小ロットの生産でも帳尻が合わないといけない。中国の工場は、どういうわけかありえないほど素早く、注文した回路や試験装置を1つだけの製造でも見事なクオリティで作ってくれる。
中国では電子部品も知識も安い。深圳の本屋で買える知識は、本当にすぐ使える。その知識が必要な部品は通りを1つ下ったSEGにあり、そこから車を北に1時間も走らせれば、どんなエレクトロニクスのアイデアでも実現して文字通り船に満載できるほど量産してくれる工場が200軒はある。
深圳には、あらゆる大企業が創業されて走り始めたばかりの、80年代のシリコンバレーの物々交換会じみた雰囲気が満ちていて、それがさらに25年間ムーアの法則が走り続けたコンピュータの進化と、インターネットの情報流通速度で拡大されている。
品質問題への対処方法
中国製品の低価格への期待と一緒にやってくるのは、品質管理上の大きな課題だ。中国製品についてのメディアの報道を見ると、オモチャに鉛入りの塗料を使ったとか、低価格化のために色々とまずいことをやっているのがわかる。
確かに一部の製造業者たちは儲けのためなら手だてを選ばない。しかし、間違いの多くは、単に無知からもたらされるものだ。一般的な工場のほとんどは、最終的にその製品がどのように使われるか知らない状態で「とにかくコストを下げろ」とプレッシャーを受けるから、間違った決定をしてしまう。
結局、製品のコストを抑えようと思ったら、中国で製造するのが一番いい。そして、品質を担保しようと思ったら、自分で中国の工場まで行くのが一番いい。Appleは幹部クラスのエンジニアを定期的に深圳に2週間以上派遣している。
第二に、「正直が最善の策」ということわざに従うこと。工場がオープンなBOM(部品リスト)で見積りを出さないようなところ、コンポーネントとプロセスとマージンを明示したBOMを出さないようなところとは仕事をしない方がいい。
また、見積もりがあまりに安すぎる時は、本当に何かおかしいことが多い。工場と価格交渉する時には、1歩下がって、そもそもそれが筋が通った見積りかを調べること。赤字で受注する工場は、実際の製造で埋め合わせようとして、どんな手口でも使う。製造で失敗する多くの例は、そうした不健全な費用構造に原因がある。
中国版オープンソース
模倣とコピーも中国でよくある習慣だ。山寨たちは、しばしばオリジナル製品の特徴や機能を模倣した製品を作り出し、しばしばオリジナルの設計図も活用する。でも、それら模倣品はコストを節約したり、独自機能を組み込んだりするために大幅な変更が加えられていることが多い。商標侵害を除けば、実際の製品の中身を見れば、とんでもない量の独自のエンジニアリングとイノベーションが見られる。
山寨式のIP共有は、予算を抑えて高度な製品開発を可能にする最も効果的なリーンエンジニアリング手法の1つだ。西洋の概念であるオープンソースにあたる山寨の「公开」では、設計図が入手できれば、オリジナルを誰が作ったのかに構わず、好き勝手に使える。それでも人々がアイデアを共有するのは、そういう設計図が広告の役割も果たすからだ。設計図には、特定のチップ名やその図を描いた会社の連絡先が書かれている。設計図を描いた人々は、連絡が来て、自分の工場の商売になるのを期待している。
公开IPエコシステムは、ハードウェア製造に特化した広告主導のビジネスのようなものだ。山寨スタイルの発明家は、工場の追加注文を手に入れようとしてアイデアをシェアする。西洋の特許の仕組みに比べ、公开方式の方が、技術の進歩のスピードにうまく適応できている。