小さなトラウマが幸福感に影響を与える
家庭に大きな不満はなく、仕事にもそこそこ満足。友人もいるし、暖かな住まいがあり、日々の食卓には食べ物が並ぶ。それなのに、ただなんとなく幸せを感じられない。人生にそれほど悪いことは起きていないかもしれないが、些細なことこそ、心の中の空洞を徐々に広げていく。誰の人生にも小さな凹凸はつきもので、それらは着実に傷跡を残し、知らない間に蓄積し、最終的に幸福感に強い影響を与える。
親子の不和、ライバルによる嫌がらせ、頻繁な引越し、成果主義、金銭のやりくりの苦労といったスモール・トラウマ(小さなトラウマ)は不調を引き起こす。その症状には、軽度のパニック、継続的な気分の落ち込み、不眠症や体重増加、慢性疲労などの健康問題が含まれる。人生における経験のいくつかは心身の健康問題につながりやすく、とりわけ短期間に連続しておきた場合は、健康を危険にさらす可能性が高い。
通常、大きなトラウマになるのは、心身への強い打撃になることが誰の目にも明らかな出来事である。一方、スモール・トラウマは、特定の文脈の中で時間をかけて積み重なっていく小さな出来事である。そして、基本的にスモール・トラウマは大きなトラウマほど酷く見えないので、見過ごされがちである。
小さなトラウマを乗り越える方法
人生のどこかで困難にぶつかることは避けられない。愛する人を失うこともあれば、人間関係が崩壊したり、解雇されたりすることもある。これらの嵐を乗り切るためには、まず自分のスモール・トラウマを見つけるところから始めること。そのためには、3ステップの方法「AAAアプローチ」を活用する。AAAアプローチによって、未解決のスモール・トラウマの累積的な影響に気づくことができれば、心の免疫システムを構築することができる。
AAAアプローチを活用して前に進もうとする時には、受容と諦めの違いを理解することが有益である。受容とは人生の困難と笑って耐え忍び、困難を前に諦めることではない。受容とは、心を開いて人生を旅することであり、良いことも悪いこともすべて積極的に受け入れ、自分は谷を越えることができるし、山頂では純粋に喜びを感じることができる、と確信することである。
Step1:気づき(Awareness)
まず幸福の概念を探るところから始める。幸福の要因は「家族及び親密な人との関係」「経済的安定」「仕事」「コミュニティと友人」「健康」「自由」「個人の価値観」という7つがあるとされる。これらの要因が生活の中にあるかどうかではなく、自分にとってどれほど重要かが肝心である。幸福を概念化すると、幸福に寄与する要素と、もっと幸福にできることが明らかになる。
●ライフ・アセスメント(生活の評価)
以下の各領域を10段階で評価する。各領域について今自分がどう感じるかを、時間をかけて考える。
- 重要な他者/パートナー
- 個人の価値観
- 余暇と趣味
- 自由
- 仕事
- 財産、経済的安定
- 健康
- 友人と家族
最も点数が高い2つの領域と、最も低い2つの領域を見て、なぜそのような点数をつけたのか考える。
Step2:受容(Acceptance)
人生のある領域を優先して他の領域を犠牲にする背景となるスモール・トラウマの存在に気づく。そして、感情について理解を深めていけば、終始幸せの仮面を被る必要はなくなり、より穏やかになり、自制心を取り戻すことができる。
●ライフ・プロット(人生のグラフ)
ライフ・アセスメントで点数が最も高かった領域と、最も低かった領域を取り上げ、それぞれを縦軸と横軸にとるグラフに現状を書き込む。この作業には正直さと率直さが求められる。ある領域の量を変更すると、他の領域にどのような影響ができるかを調べる。ある領域だけが優先され、人生全般の質が損なわれていないかを考える。
永遠の幸せを求めることはスモール・トラウマになり得る。なぜなら、そうすると人は生涯、自分は何かが足りないと思い続けることになるからである。そもそも私たちは常に幸せでいられるようにはできていない。進化的に見れば、私たちの生きる目的は、子孫を残し、人類を存続させることである。常に幸せでいたいという願望を手放せば、地に足をつけて、今を生きられるようになる。
Step3:行動(Action)
束の間の幸福感やポジティブな感情を大切にしながら、長期的には「幸福の7つの要因」のバランスをとって、満足感を持続させる。
自分の人生に欠けている領域に注力することで、その場限りの快楽主義的な幸福感から、幸福感の真髄である、より深い自己実現へと進むことができる。もう一度、自分の点数を見て、次のように自問する。
- 今、どの領域に取り組みたいか
- なぜ、その領域を選んだのか
- その領域のスコアが10点になったら、人生はどう変わるだろうか
- スコアを上げるために何が必要だろうか