「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦

発刊
2024年9月6日
ページ数
232ページ
読了目安
250分
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丸亀製麺の戦略
「丸亀製麺」などの飲食店を展開するトリドール創業者が、小さな焼き鳥屋からどのように成功したのかを語っている一冊。

香川県丸亀市のうどん製麺所から着想を得た「丸亀製麺」がなぜ繁盛店となったのか。多店舗展開をする上で、何を考えてきたのかが書かれています。現在では海外展開も進めているトリドールのこれからの経営方針など、競争の激しい外食産業の中でどのような成長戦略が必要なのかというヒントを得られます。

トリドールが大きくなった理由

トリドールグループでは、丸亀製麺の他にコナズ珈琲や肉のヤマ牛など、約20の飲食ブランドを世界28の国と地域に1979店舗展開している。年間売上収益約2,300億円の大企業になったトリドールの始まりは、兵庫県加古川市にオープンした小さな焼き鳥屋だった。「将来的に3店舗出したい」という願いを込めて、1号店なのに店名は「トリドール3番館」。創業当初は閑古鳥が鳴いており、1店舗を続けていけるかどうかもわからない有様だった。

 

トリドールがここまで大きくなれたのは、2つの理由がある。

  1. 「感動」という体験価値を中心に据え、チェーン化してもその根幹を変えなかったこと
  2. 人を感動させられるのは人に他ならない。人こそが最も大事な強みの源泉だと認識していること

 

非効率でも体験価値にこだわる

「この行列は一体何や!」。香川県丸亀市の製麺所で受けた衝撃が「丸亀製麺」誕生のきっかけになった。小さな製麺所の中に入ってみると、打ち立てのうどんを釜で湯がいて、どんぶりに入れてくれる。小屋のような簡素な建物に立ち込める湯気、小麦の香り、その臨場感に圧倒された。出てきたうどんは、醤油をまわしかけて食べるシンプルなもの。たった2人で運営していて、基本的にはセルフサービス。それでも大行列ができ、人々は満足している。

そこで気づいたのが「体験価値」の重要性だった。この製麺所では、うどんを打ち、茹でるという調理シーンが、人を惹きつけている。ライブ感が非日常を感じさせ、素のうどんを食べるという一見普通の体験を特別なものにしているのだと。

 

兵庫県に戻ってきてから、実験的に「製麺所の風情があるセルフうどん」というコンセプトで丸亀製麺の1号店をつくった。当時は焼き鳥屋がメインだったので、そこまで力を入れることはできなかったが、丸亀製麺は繁盛し続けた。食の感動を求める人の心は時代によって変化するものではなく、感動は複合的な要素から成るため簡単に真似できない。体験価値はより本質的な強みなのである。

 

体験価値は店づくりから始まる。丸亀製麺の店舗は、一目見て「丸亀製麺だ」とわかるように統一したイメージで作られている。細部にいたるまで、丸亀製麺の世界観を反映している。入り口付近に小麦粉の袋に製麺機、うどんを茹でる釜。麺は小麦粉と水と塩だけを使い、店内で製麺。生地を1日寝かせるための熟成室もお客様に見える場所に設置している。すべての店で、塩・水・小麦粉から職人たちがうどんを作り、できたてのうどんを提供する。

チェーン化には標準化の罠がある。チェーン展開する時は、オペレーションやメニューを効率的・画一的にしていくことを求められる。その過程で強みが薄まってしまう。逆に言えば、一番の強みを手放さなければ、店舗が増えても人気店であり続けられる。丸亀製麺の強みは、製麺所の風情を感じながら打ち立て・茹でたてのうどんが食べられるという体験価値である。

製麺機などの設備投資、茹でる湯を沸かしたり水でうどんを締めたりする水道光熱費などのランニングコスト、すべて手作業にすることによる人件費や教育投資費の増加、効率やコストパフォーマンスが悪く見えることでも、体験価値を生み出すためにやっている。効率化が先ではない。たくさんのお客様が来てくださることで、収益が上がり、多店舗化できるのである。

 

丸亀製麺の店舗が増え始めた頃、いくつものコピー店が出てきた。しかし、丸亀製麺が提供している体験価値がなければ、お客様はリピートしてくれない。同業態への他社の参入が難しいのは、丸亀製麺が「うどんを手間暇かけて粉から手作りする」と「全国各地に店舗を増やし同じクオリティを提供する」という、一見すると相反する事柄を両立しているからである。

 

「人」こそすべての源泉

丸亀製麺では調理も接客も自動化しない。人がつくり、人が提供する。時には、揚げたてを食べて頂くために、お客様のオーダーを受けてから天ぷらを揚げることもある。スタッフとの何気ない会話も体験価値の1つである。

トリドールは、労働人口減少による飲食業界の省人化の流れに逆らい、社員・パートナースタッフを増やす。そのため、「働く人の幸せ」を主軸においた経営改革に取り組んでいる。「働く人の幸せ」が感動をつくり、結果的に利益につながる。目指しているのは、店や職場を働く人にとってかけがえのない居場所にしていくこと。

 

自分の日々の仕事に目標や誇りを持つ。これは、生き生きとやりがいを持って働くために重要なことである。そのために2016年から実施しているのが、丸亀製麺の「麺職人制度」である。製麺の作業はルーティーンになりがちである。毎日同じことを繰り返すのではなく、日々上達していきたいと思えるような目標を設定したかった。試験を受けてもらい技術や経験によって4つのレベルに分け、麺職人と認定している。

 

参考文献・紹介書籍