世界を支配するアリの生存戦略

発刊
2024年8月20日
ページ数
256ページ
読了目安
276分
推薦ポイント 2P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

世界中で大繁殖している外来アリの生態と仕組み
南米原産のアルゼンチンアリは、世界五大陸に進出し、巨大な巣のネットワークを構築している。一般的なアリと異なり、巣同士がナワバリ争いをするのではなく、連携する仕組みを持ったことで、圧倒的な繁殖力を持ったその生態が紹介されています。

外来アリとして、生態系や農作物にも被害を与えているアルゼンチンアリの問題から、その対策への取り組みなど、アリの生態に詳しくなる一冊です。

外来アリによる被害

外来アリの凄さは、普通のアリにはない社会性を進化させることによって得られた底なしの繁殖力にある。普通のアリは1つ1つの巣が独立したコロニーになっているが、外来アリは「スーパーコロニー」という無数の巣が相互に連携し合う巨大なコロニーを作り、効率的な社会活動を行う。また、外来アリは人工的な環境にもよく適応し、私たちの生活圏内に入り込んでくる。その頂点を極めたと言えるのが「アルゼンチンアリ」という種である。

 

アルゼンチアリは南米原産のアリで、数百、数千km規模に及ぶ世界最大のスーパーコロニーを作る社会性昆虫として知られる。1850年頃から原産地の外に広がるようになり、現在は世界5大陸に侵入しており、世界の侵略的外来種ワースト100に数えられるほど問題になっている。アルゼンチンアリは既に日本にも侵入しており、2000年頃から一部地域で被害が顕在化し、住民や行政機関、専門家を悩ませている。

 

侵入地ではアルゼンチンアリが引き起こす三大厄災を被ることになった。

①生態系の撹乱

アルゼンチンアリは、繁殖力が高く、個体数で圧倒することで、多くの在来アリを駆逐してしまう。アリ類の他にも小型の昆虫をはじめとする様々な節足動物が捕食を受けるなどして個体数や種数を減らしている。また植物も間接的な影響を受けている。

 

②農業の被害

アルゼンチンアリは甘露が大好きで、アブラムシやカイガラムシなどの同翅類昆虫と共生関係を結ぶ。甘露を餌としてもらう代わりに天敵を追い払うことで、同翅類昆虫が大増殖する。その結果、農作物は害を受ける。

 

③生活環境における被害

人間の日々の生活にとってアルゼンチンアリの1番の問題は家屋侵入である。生息密度が高いため個体を一度駆除してもすぐ侵入してくるし、家の周りの巣を集中的に駆除しても際限なく復活してくる。

 

外来アリの生存戦略

昆虫の中には集団生活をして、他者を利する「利他行動」によって仲間同士助け合いながら暮らすものもいる。これらの昆虫は社会性昆虫と呼ばれる。特にアリのように高度な社会を発達させた社会性昆虫では繁殖をしない労働階級の個体(働きアリ)が見られる点で人間やその他の動物の社会とは大きな違いがある。

アリには女王アリがいて、女王アリは産卵に集中し、働きアリがその卵や孵化した幼虫を育てる。繁殖期には女王との交尾のためにオスアリが出現する。これらの個体が1つのコロニーとして巣の中で共同生活する。

 

侵略的外来アリは、一般的なアリに比べ、はるかに大きなコロニーを作るのが特徴である。多数の女王がいる多数の巣が1つのコロニーを構成しており、これらの巣同士は互いに敵対せずアリが自由に行き来したり協力しあったりする。コロニーに含まれる巣があまりにも広範に分散しており、遠く離れた巣の個体同士は直接交流することがほとんどない、あるいは全く起こらなそうなレベルであることから、この巨大コロニーは「スーパーコロニー」と呼ばれる。

一般的なアリよりコロニーが巨大化するのは、侵略的外来アリが近隣への巣分かれの仕組みを持っているからである。侵略的外来アリでも一般的なアリと同様に繁殖期には羽アリが出現するが、新女王は結婚飛行するのでなく、母巣内でオスアリと交尾を済ませる。その後、母巣の働きアリと共に近隣にできた巣に引っ越しをする。母巣と、巣分かれによってできた巣とは、血縁関係があるため敵対関係にはなく、むしろアリの行列を介してつながっており、お互いを自由に行き来して連携し合う関係にある。この巣分かれによって、巣のネットワークを拡大していき、地域全体が1つのスーパーコロニーとなる。

 

スーパーコロニーを形成することにより、侵略的外来アリはたくさんの巣が連携して効率的なリソース配分をすることができる。市街地のように人間によって巣場所がしばしば撹乱されるような環境ではスーパーコロニー制は特に有利と考えられる。何より、一般的なアリと異なり、近隣とのナワバリ争いに費やすコストが大幅に減り、その分のエネルギーを繁殖に投資することができる。

 

しかし、スーパーコロニー制は進化生物学的には合理的とは言えないという指摘もある。もしスーパーコロニーの外部から同種のオスがやってきて交配したりすると、スーパーコロニーのメンバー間の血縁度が低下する。世代を重ねてこのような事例が積み重なると、メンバーの血縁関係がどんどん薄れ、赤の他人同士になってしまう。そうなると、協力関係を維持するメリットはなくなる。

こうした問題に対して、アルゼンチンアリでは血族内での交配を守るべく、働きアリが外部から血縁関係のないオスの移入を禁止しており、かつ巣内でも自分たちと血縁関係が低めの女王を処刑して間引くことがわかってきている。

 

参考文献・紹介書籍