経験バイアス ときに経験は思考決定の敵となる

発刊
2024年8月19日
ページ数
355ページ
読了目安
506分
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経験に基づく意思決定のリスク
人間は、過去の経験をもとに意思決定を行いがちだが、状況によって、その経験が役に立たないことが多い。人間の経験に基づく意思決定のバイアスについて、そのメリットとデメリットを解説し、どのように正しい意思決定をすれば良いのか、その手助けとなる方法が紹介されています。

自分の経験があてになる時、あてにならない時を理解することができ、物事を判断する時に、一歩立ち止まり、物事を冷静に判断するための視座を与えてくれる一冊です。

経験があてになるとは限らない

人生のほとんどの側面で、意思決定を下すのに経験が不可欠であることは疑うべくもない。確かに経験は信頼できる教師になってくれる。しかし、問題はどんな場合でも信頼できるとは限らないことだ。経験に頼りすぎると、経験が授けてくれる「知識」のせいで、本当は思慮不足なのに、知恵者になったような気になってしまうこともある。経験が正しい答えを与えずに、むしろ誤った答えを補強してしまう恐れもある。

 

経験は、自分固有のもので、無意識かつ迅速に学べて、心強い味方になってくれ、永続性もあるので、無視するのは極めて難しい。経験によって直感に刷り込まれた教訓は、信頼できそうに感じられるが、経験が間違ったことを教えている場合でさえ、やはりそう感じられてしまう。

自転車やテニスなどの練習をする時は、そう思っていてもあまり問題はない。それが、学習になじむ環境で行われる活動だからである。学習になじむ環境とは、意思決定者の行動に対して、すぐさま的確かつ十分なフィードバックが与えられ、しかも、ゲームのルールがほとんど変わらないような環境のことだ。このような、ある限られた状況のもとで経験から得た教訓は、大抵信頼できる。

 

しかし、現代の私たちの生活は、自転車やテニスのようにはいかない。見えているものがすべてとは限らないからだ。人生のほとんどの場面で、私たちは学習になじまない環境に置かれる。自分の経験が絶えず、様々なフィルターで除去されたり、歪められたりする環境のことだ。そこでは、経験から何かを学んだとしても、その教訓が物事の実態を正確に映し出しているという保証はない。重要な情報が抜け落ちている場合や、無関係な情報が混在している場合には、なかなか正しい教訓は得られない。

したがって、経験から得た教訓に疑いの目を向け、適宜その誤りを正していくことが重要になる。特に複雑な状況のもとで、正しい情報に基づく決断を下したい場合には、それが欠かせない。

 

学習になじまない環境に置かれている時に、問うべきは次の2点である。

①自分の経験から抜け落ちている重要な情報で、今起きていることを完全に理解するために明らかにすべきことはないか?

②自分の経験に入り込んでいる意味のない些末な情報で、今起きていることから注意がそれるのを避けるために無視すべきことは何か?

 

学習になじまない環境下ではとかく、経験からうっかり学んだ教訓が、私たちを正しいとは言えない結論や、完全に間違った結論に導いてしまいがちだが、この2つの問いは、それを疑ってかかる上で貴重なツールになる。

 

経験の罠を回避するための3つの注意点

特に大きなリスクを伴う場合には、自らの経験について「見落としているのは何か」「無視すべきなのは何か」という2点を問いただすことが重要になる。こうした問いに答えていくうちに、だんだんと探知能力が養われていき、経験から得た教訓だけに頼ろうとせずに、むしろ、経験からの教訓を吟味と検証を求めるシグナルだと思えるようになる。

こうした方法をとれば、経験から導かれる個人的教訓の質が高められるはずだが、当然ながらそれは直感と相容れないので、自分の意思決定に取り入れるのは難しい。そこで価値を持つのが、部外者の視点である。経験から得た教訓に欠陥が潜んでいるのを察知して警告してくれる、経験コーチのような存在を思い描き、次の3つの危険信号に注意するといい。

 

①利用可能性バイアス

人間は、自分がよく見聞きするかどうかをもとに、出来事の重要性や起こりやすさを判断する傾向がある。経験する頻度が高いほど、その事柄が直感的に思い浮かぶようになる。しかし、よく経験する事柄だけがすべてではないことも多い。

  • 物事の結果ばかりを経験しているのではないか
  • 限定された結果ばかりを経験しているのではないか
  • 個人的に経験したことばかりに頼っていないか

 

②不適切な拠り所

人間は、ある特定の基準を拠り所にして、判断、予測、意思決定を行う傾向がある。そのため、無関係な事柄や、無視した方がいい事柄に気を取られ、それを拠り所にしてしまうこともある。

  • 経験から単純な因果ストーリーを読み取り、それをもとに意思決定を下そうとしていないか
  • 心引かれる快適さ、情動体験、選択肢、ゲーム的要素にのめり込んでいないか
  • 問題の一部にばかり注意を向けていないか

 

③誤った確信

人間は、経験を重ねることで、知識や技術が身についていく。そのおかげで、細かい事柄をいちいち考えずにすんでいる。しかし、経験を重ねるほど誤った信念が強化され、経験から得た教訓を見直したり、あえて忘れて学び直したり、バージョンアップしたりするのを妨げてしまうこともある。

  • 経験内容にフィルターがかけられたり、経験内容が歪められたりしていないか
  • ある教訓の正しさをどれくらい確信しているか