50代のワークライフを幸せに過ごすための鍵
出世や昇進という山を登ってきたものの、50代になるとごく一部の人を除けば先が見えてくる。企業によっては、役職定年制が導入されており、マネジャー職を解かれたり、子会社に出向したりして、給料が大幅に引き下げられてしまうことが少なくない。
しかし、定年延長の流れもあり、50代以降のワークライフも決して短くない。この行き詰まりを打破し、50代のワークライフを幸せに過ごすためのキーとなる概念がジョブ・クラフティングである。
ジョブ・クラフティングとは、自分の仕事を主体的に捉え直すことで、自分らしさや新たな視点を入れて、やらされ感のある仕事をやりがいのあるものへと変えていく考え方のことである。
わかりやすく言うと「仕事の中に自分をひと匙入れる」こと。課せられた業務そのものはしっかりと遂行しつつも、自分のひと匙を入れ、自分の持ち味を活かすことで、仕事と自分との関係性が変わってくる。こうした自分起点での仕事への働きかけが、ジョブ・クラフティングである。ジョブ・クラフティングには、年代を問わずに、働きがいを自ら高めていく効果があることが様々な研究で確認されている。
仕事において、自分にとって最善であるかということも判断軸に含めて、自分で取捨選択していこうという姿勢は、経験を積んだミドル・シニア層だからできるジョブ・クラフティングである。その仕事に求められている成果と遵守すべきプロセスをわかっているからこそ、自分らしいひと匙を入れることができる。
ジョブ・クラフティングとは
ジョブ・クラフティングとは「働く1人1人が、自らの仕事経験を自分にとってより良いものにするために、主体的に仕事そのものや仕事に関係する人との関わり方に変化を加えていくプロセス」のことである。重要なポイントは、次の2点である。
①「主体的に」変化を加えること
仕事の効率性を改善するように上司から指示されて改善等を考案したり、実施することは含まれない。但し、その際に自分らしさを活かせるように考え、実際に変化を加える場合にはジョブ・クラフティングと言える。
②変化の目的を「自分で」考えること
上司や組織から与えられた業務であっても、自分にとって意味のある経験と捉え直すことはできる。自分自身が仕事の目的を捉え直すことで仕事への向き合い方や仕事の仕方が変わってくることがジョブ・クラフティングである。
ジョブ・クラフティングという考え方は、個人によって1つ1つの仕事の捉え方が多様であることを前提にしている。だからこそ、自分のひと匙を入れてみることで、客観的にはほぼ同じ仕事であっても自分にとっての仕事の手触り感、すなわち仕事の経験が変わる可能性がある。これが「自らの仕事経験を自分にとってより良いものにする」ことである。
ジョブ・クラフティングにおいては、人との関わり方の変化も重要な要素になっている。というのは、ほとんどの仕事において仕事を遂行するために何らかの人との関わりがあるためである。仕事の中身そのものはもちろん、誰とどのようにして行うかが、仕事の意味や働きがいといった仕事体験に多くの影響を与える。
さらに、他の人との関わりを通じて、自分の仕事がどのようなものかが見えてくるという側面もある。仕事というものは、本来、誰かに対して何らかの貢献を果たすことで価値を生み出しているものである。
自分のひと匙の探し方
自分のひと匙というと、他の人が持っていないスキルや能力といった、独自性の高いものが求められるように思いがちだが、ジョブ・クラフティングでは、他者と比較する必要はない。あくまで自分にとっての意味が大事である。
まず、自分にとって持ち味や強みと思えるものを再認識すること。それを知るための方法として、次の5つがある。
①過去のジョブ・クラフティング経験を思い出す
様々な経験の中から、成果の大きさにとらわれず、自分が主体性を持って動いた経験やワクワクした経験にフォーカスする。
②現在の仕事から抽出する
1週間、自分の仕事に従事する時の気持ちを観察し、仕事に関する好きなことと嫌いなことを記録する。
③越境経験を振り返る
越境経験とはいつもと違うところに来たと感じる体験のこと。社外での勉強会、社会人大学院、ボランティア活動、副業などが典型的なものである。越境の範囲は、離職や転職の経験、異動など広げることができる。また、普段の仕事や生活の延長線上に生じる小さなアウェイ体験を越境と捉えることもできる。
④自己認識のためのツールを活用する
VIA-IS、個人価値観カード、ストレングス・ファインダーなどのツールを利用する。
⑤他の人に聞く
現在または過去の同僚・上司、先輩・後輩、仕事以外で接点がある友人、家族や恩師などに、自分の強みや熱意を持って実行できていることなどを指摘してもらう。