判断する人と実行する人の役割を分断しない
私たちには、産業革命期の組織のやり方が染み付いている。当時の組織は、働く人々をリーダーとリーダーに付き従う部下、つまりは決断する者と実行する者に分断していた。上司(判断する人)と部下(実行する人)を分断してしまうと、どちらも主体的に仕事に取り組む機会を奪われてしまう。そして役割に同化して上司への、あるいは部下への配慮をなくし、いずれ最低限のことしかしなくなる。
これからの時代は、組織のトップだけでなく、どの階級のどのレベルの人も、すべての行動に思考を伴うようにする必要がある。そのためには、私たちに染みついた産業革命期のやり方を根本から変える必要がある。
①時計に従う → 時計を支配する
②強要する → 連携をとる
③服従する → 責任感を自覚して取り組む
④終わりを決めずに続行する → 事前に定めた目標を達成したら区切りをつける
⑤能力を証明する → 成果を改善する
⑥自分の役割を同化する → 垣根を越えてつながる
この移行に特別なことは必要ない。ただ、コミュニケーションの際の言葉遣いを変えればいい。言葉遣いを変えるとメンバーの行動が変わり、パフォーマンスも大きく改善していく。
組織の意思決定と実行モードのバランスをとる
意思決定(考えること)と実行(行動すること)は種類が異なる仕事であり、バリエーション(ばらつき)の捉え方も正反対になる。よって、意思決定と実行では全く異なる頭の使い方が必要になり、使う言葉の種類も変わる。
- 青ワーク:バリエーションを歓迎する、考える仕事や意思決定を行う仕事
- 赤ワーク:バリエーションを抑える必要のある、実行する仕事
仕事を進めるには、赤ワーク、青ワークのどちらかだけでは不十分だ。どちらも適切な量を行う必要がある。そのバランスを見つけて、チームとして意図的に仕事のやり方を変える必要がある。
必要に応じて赤から青へと仕事のモードを切り替えるには、言葉を変える必要がある。
- 赤ワーク:「やり遂げろ!」「現実にしよう」「これを終わらせよう」「計画通りに進んでいるか?」
- 青ワーク:「君はどう思う?」「もっといい方法をとれないか?」「学んだことは何か?」
赤ワークの場合、単純に同意するか、「はい/いいえ」で答えるかのどちらかになるので、発言の割合は偏る。一方、青ワークの場合、チームのメンバーから長い回答を引き出す。そのため、会話の偏りは小さくなる。
これからの新しいやり方
①時計を支配する
適切なタイミングで仕事の中断や小休止を言い出せるようにしておくこと。赤ワークのプレッシャーから脱して、青ワークに移行することが容易になる。
- 中断を阻止するのではなく、中断できる環境を整える
- 言いたいことがあれば口にするはずだと期待するのではなく、中断のための言葉や合図を決めておく
- 赤ワークの続行を推し進めるのではなく、中断の兆しをとらえ、自ら呼びかける
- 誰かが中断の合図を出すまで待つのではなく、中断するタイミングを事前に決めておく
②連携をとる
上司、部下を問わず、他者から学ぶことで、仕事の仕方や成果、製品、アイデアをより良いものにしていくこと。青ワークの精度を上げることができる。
- 順番に配慮する。投票をしてから議論する
- 自分の考えを押し付けず、周囲の考えに関心を持つ
- 合意を推し進めず、異論を歓迎する
- 指示するのではなく、情報を与える
③責任感を自覚して取り組む
これから何をするかを自分で考え、それに専念すること。作業をこなすことよりも、その作業の背景にある目標の達成に意識が向いて、当事者意識が喚起される。
- 実行するだけでなく、何かを学ぼうとする
- 信念よりも、やるべきことを優先する
- 作業を小さく分けてすべてやり遂げる
④事前に定めた目標を達成したら区切りをつける
赤ワークを終えること。立ち止まって自分たちが成し遂げたことを振り返り、労う。赤ワーク、青ワーク、赤ワークの適切なリズムを生み出すことができる。
- 区切る回数は、前半多め、後半少なめにする
- 外からではなく、一体となって労う
- 区切りとなる言動を定める
- 目的地ではなく工程に注目する
⑤成果を改善する
赤ワークを終えた後で、学んだことを振り返り、現状の計画や工程、設計の改良を行うこと。成長したいと願う「もっとよくなりたい自分」モードで行われる。
- 後退ではなく前進に意識を向ける
- 内側ではなく外側に意識を向ける
- 人ではなくプロセスに意識を向ける
- ミスの回避ではなく、偉業の達成を目指す
⑥垣根を越えてつながる
他者を気にかけ、権力の勾配を緩くすること。「他者のため」ではなく「他者と同列の立場」での行動を心がけることで、上記①〜⑤のやり方の有効性を高める。
- 権力の勾配を小さくする
- 知らないことは知らないと認める
- 弱さを見せるようにする
- 自分が先に相手を信頼する