「学力」の経済学

発刊
2015年6月18日
ページ数
199ページ
読了目安
243分
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科学的根拠に基づく教育の正しいあり方
海外の科学的な研究データに基づき、効果的な教育についてを紹介している本です。最新の海外の教育研究を紹介しながら、本当に効果のある教育とはどのようなものかを解説しています。

子供を「ご褒美」で釣ってはいけないのか

子供の頃にちゃんと勉強しておく事は、将来の収入を高める事につながる。教育投資への収益率は、株や債券などの金融資産への投資等と比べても高い事が多くの研究で示されている。

しかし、人間には目先の利益が大きく見えてしまう性質があり、そのために遠い将来の事なら冷静に考えて賢い選択ができても、近い将来の事だと、たとえ小さくともすぐに得られる満足を大切にしてしまう。これは子供が勉強する時にも生じている。「目先の利益や満足を優先してしまう」という事は、「目の前にご褒美をぶら下げられると、今、勉強する事の利益や満足が高まり、それを優先する」事でもある。

過去の研究蓄積を見る限り、「ご褒美」の設計を正しく行えば「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせる事なく、かつ貯蓄する事の大切さを学ばせつつ、学力を向上させられるはずである。

インプットにご褒美を与えること

「1時間勉強したら、勉強が終わった後にお小遣いをあげるよ」「テストで良い点を取ったら、お誕生日にお小遣いをあげるよ」。前者はインプットに対して、後者はアウトプットに対してご褒美を与える。研究によれば、前者の方に効果がある。「アウトプット」にご褒美が与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法が示されておらず、学力に影響を及ぼさない。アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるのかという方法を教え、導いてくれる人が必要である。

子供は褒めて育てるべきか

自分に自信を持つ、自尊心を高める事は大切であると考えられている。心理学の研究では、自尊心が高い生徒は、教員との関係が良好で、学習意欲が高く、実力に見合った進路を選択している傾向がある事が指摘されている。

しかし、研究によれば自尊心と学力の関係はあくまで相関関係にすぎず、因果関係は逆である、つまり学力が高いという「原因」が自尊心が高いという「結果」をもたらしているのだと結論づけられた。子供の自尊心を高めるような様々な取り組みは、時に学力を押し下げる効果を持つ。悪い成績を取った学生に対して自尊心を高めるような介入を行うと、悪い成績を取ったという事実を反省する機会を奪うだけでなく、自分に対して根拠のない自信を持った人にしてしまう。むやみやたらに子供を褒めると、実力の伴わないナルシストを育てる事になりかねない。

子供を褒める時には「あなたはやればできるのよ」ではなく、「今日は1時間も勉強できたんだね」と具体的に子供が達成した内容を挙げる事が重要である。そうする事で、さらなる努力を引き出し、難しい事でも挑戦しようとする子供に育つ。

教育にはいつ投資すべきか

子供の投資に対する収益率が高いのは、子供が小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)である。就学前が最も高く、その後は低下の一途を辿る。そして、一般により多くのお金が投資される高校や大学の頃になると、人的資本投資の収益率は、就学前と比較すると、かなり低くなる。この人的資本への投資には、しつけなどの人格形成や、体力や健康などへの支出も含む。就学前教育の収益率が高いのは、1つは人生の初めの段階で得た知識は、その後の教育で役に立つからである。そして、就学前教育には長期にわたって持続するような効果があるためである。

IQや学力テストで計測される「認知能力」と違い、「忍耐力がある」「社会性がある」「意欲的である」といった人間の気質や性格的な特徴である「非認知能力」は、将来の年収や学歴、就業形態などの労働市場における成果に大きく影響する。幼児期における、この子供の非認知能力への投資が、子供の成功にとって非常に重要である。