競争の科学 賢く戦い、結果を出す

発刊
2014年9月20日
ページ数
360ページ
読了目安
544分
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うまく競争するためには何が必要か
成功するにはうまく競争しなければならない。競争という行動を人間の心理的、生物学的な点から解説している本です。いかにうまく競争するかという科学的知見が書かれています。

練習だけでは成功しない

近年、あらゆる活動における成功の秘訣は、意図的かつ努力を要する訓練を10年程度にわたって積み重ねる事だという主張がなされてきた。訓練こそが熟達に至る道であり、地道に練習を続ける事で成功のチャンスを高められるのだと。だが、成功するためには、ここぞという場面で能力を発揮できなければならない。練習と競争は別物だ。どれだけ経験を積んだところで、競争のストレスを消す事はできない。勝者になるのは、より多く練習した人ではなく、よりうまく競争した人だ。

 

競争能力は、生得的要素と後天的要素の所産だ。一般的に生物学的要因は決定的・恒久的なものだと考えられている。しかし、現実はそれほど単純ではない。生理的要因と心理的要因は主導権を奪い合っている。よく言われる「一流と平凡な競争者の違いは精神的なものである」という言葉は本質を突いている。優れた競争者は、心理的状態をコントロールする事で、その基礎となる生理的状態を変える事ができる。

 

不安をどう解釈するか

人間の脳が、実際に起きていない事や、おそらく実現しないであろう事を考えるのにかなりの時間を費やしている事には、多くの人が気付いているはずだ。だが脳はそれを「実際の出来事とほぼ同じもの」として認識するために、現実の出来事に対してと同じように、これらに熱心に思いを巡らせるようになる。

イリノイ大学の研究によれば、人間は平均して1日の思考全体の3%を、このような現実もどきの架空のシナリオについて考える事に捧げている。また人は1日の思考の6%を過去や未来との現在の比較に費やしている。過去の失敗や判断ミスを思い出したり、また同じような失敗をしてしまわないかと考える事に、大きな精神的エネルギーを費やしているのだ。また、すべてがうまくいったらどうなるだろうかという夢想に没頭する事もある。

 

さらに人間は全思考の3%を他者を基準にした否定/肯定的な自己評価に費やしている。すべて合わせると、人間の思考の12%はこうした比較による自己評価に捧げられている。

この割合は、困難が予測される競争の前や、困難な競争の後などに急増する。一般的にこうした絶えざる自己比較は、不安を生じさせるものであるため、止めるべきだと考えられている。不安はミスにつながるからだ。

 

ところが事実はそうではなく、多くの研究で、認知的不安とパフォーマンスがともに高いケースが見られた。また、身体的不安による極めて高レベルの生理的覚醒が生じた場合にパフォーマンスが低下するという理論も、それを証明するデータが実験や観察によって得られない事が多かった。

 

人にはそれぞれパフォーマンスに効果的な不安レベルがある。不安が多い時に最高のパフォーマンスをする選手もいれば、その逆の選手もいる。最適なパフォーマンスに必要な不安レベルが、その人の日常生活の基準値を極端に上回る事は少ない。日頃からリラックスしている人は、不安レベルがそれほど高くない時に最善の能力を発揮しやすい。日頃から神経質で気を張っている人は、覚醒レベルが高いほどパフォーマンスを発揮しやすい。

 

アマチュアとプロの真の違いは、不安をどう解釈するかだ。アマチュアは不安を有害なものととらえ、プロは有益なものととらえる傾向がある。プロは、自分が不安を感じていると自覚している。だがそれでもまだ、「状況をコントロールできる」と信じている。

大切なのは必ずしも競争者をなだめてリラックスさせる事ではない。それよりも競争者を最適なゾーンへと導く事なのだ。

 

勝つ見込みがあると感じることでパフォーマンスが向上する

競争の特徴の1つは、他者に挑戦される事で、努力レベルを押し上げられるようになる事だ。但し、競争能力を高めるためには、競争が「接戦」である事が何より重要である。競争者に「頑張れば勝てる」と思わせる事が重要なのだ。人は軽々と勝てると思うと、全力を出そうとはしなくなる。どうあがいても勝ち目がないと思った時も、懸命に努力するのをやめる。

成功の見込みをどの程度感じているかは、競争能力に多大な影響を及ぼしている。競争しているのが10人なのか100なのかによって、パフォーマンスには大きな違いが生じる。競争相手が多すぎても、努力レベルの低下が生じてしまう。

 

ホームアドバンテージ

場所は、私達に大きな影響を及ぼしている。ホームアドバンテージを持つ者は、大きな恩恵を受ける。アウェイ側に比べ、多い場合は160%もの成果を得る事ができる。それはなぜ起こるのか。近年では、ホームアドバンテージは人間が進化の過程で生得的に獲得した縄張り意識に根ざすものであるという見解が主流になっている。縄張り意識が活性化すると、侵入者に果敢に立ち向かおうとする事で、競争心が高まる。縄張りを脅かす存在を感知した時、人は自信と意欲を高め、攻撃的になる。最適な方法で状況をコントロールしているという、自己効力感も高まる。

 

男女の違い

競争とは負けのリスクをとる事だ。競争に投資をするほど、負けて失うものも多くなる。このリスクの判断方法が、女性と男性では異なる。女性は負ける可能性を認識する事に優れている。一方の男性は、負ける可能性をうまく認識できず、自信過剰である。男性は勝利だけに注目する傾向がある。男女のどちらもが競争への参加を決める時、リスクと報酬を天秤にかけて計算をする。但し、そこには違いがある。女性は勝算に注目し、男性は勝つ事に注目するのだ。人は勝算に注目すると競争への参加率が低くなり、勝つ事に注目すると高くなる。

 

獲得型と防御型

人間行動の根源には、快楽を求める事と苦痛を避ける事がある。この2つは大抵、どちらかがわずかに優位になっている。競争のプレッシャーにさらされると、このバランスがさらにどちらか一方に傾く事がある。競争の開始前や競争中の決定的瞬間に近づくまでは、快楽を求める事が多い。だが決定的瞬間が近づくと、得る事よりも失わない事に意識が向き始める。この概念を「獲得型志向」と「防御型志向」と呼ぶ。

競争の終盤になり、ゴールが間近に迫ってくると、防御型志向にシフトする傾向が強くなる。ほとんどの競争者にとって、パフォーマンスを発揮しやすいのは前者である。様々な状況で「脅威」から「挑戦」にフレームを切り替える事が成功の鍵になる。

参考文献・紹介書籍