エフェクチュエーションとは
エフェクチュエーションとは、熟達した起業家に対する意思決定実験から発見された「高い不確実性に対して予測ではなくコントロールによって対処する思考様式」である。
私たちは一般的に不確実な取り組みに際しては、まず行動を起こす前にできる限り詳しく環境を分析し、最適な計画を立てることを重視する。目的に対する正しい要因を追求しようとする、こうした思考様式を「コーゼーション(因果論)」と呼ぶ。しかし、実験の結果、高い不確実性への対処において熟達した起業家は、必ずしも予測可能性を重視するコーゼーションを用いておらず、対照的にコントロール可能性を重視する代替的な意思決定のパターンを示すことがわかった。
エフェクチュエーションの5つの原則
経験ある起業家は、極めて不確実性の高い問題に対して、共通の論理を活用する。この論理は、次の5つの特徴的なヒューリスティックス(経験則)からなる。
①手中の鳥の原則
「目的主導」ではなく、既存の「手段(資源)主導」で何か新しいものを作る。
共通して活用する「手段」は次の3種類。
- 私は誰か:特性や興味、能力や性格、アイデンティティ
- 私は何を知っているか:趣味や過去に受けた教育から得た知識、人生経験を通じて獲得した経験則や信念
- 私は誰を知っているか:頼ることができる人とのつながり
②許容可能な損失の原則
期待利益の最大化ではなく、損失(マイナス面)が許容可能かに基づいてコミットする。
許容可能な範囲で行動するためには、次の2つの視点を持つ。
- 着手する時点で最初に投入する資源をできるだけ小さくできないかを考える
- 失うことを許容できない資源をなるべく危険に晒さないようにする
③レモネードの原則
予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用する。
偶然の人との出会い、情報の獲得、様々な出来事の発生など予期せぬ事態を活用するためのステップは次の通り。
- 予期せぬ事態に気づく
- 同じ現実に対する見方を変える
- 予期せぬ事態をきっかけに「手持ちの手段(資源)」を拡張する
- 拡張した手持ちの手段を活用して新たに「何ができるか」を発想する
④クレイジーキルトの原則
コミットする意思を持つ全ての関与者と交渉し、パートナーシップを築く。
パートナーのコミットメントを獲得するには「問いかけ」を重視し、どのような形であれば相手と共に未来を創っていくことができるかをオープンに問いかける。
⑤飛行機のパイロットの原則
コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる。
未来に起こるだろう結果の予測や、過去の成功・失敗ではなく、「いま・ここ」に集中して、望ましい結果を導こうと行動する。これは他の4つの原則を組み合わせることで実行される。
エフェクチュエーションのプロセス
熟達した起業家は、最初から市場機会や明確な目的が見えなくても、既に持っている「手持ちの手段(資源)」を活用することで、「何ができるか」というアイデアを発想する。(手中の鳥の原則)
次に「何ができるか」のアイデアを実行に移す段階では、期待できるリターンの大きさではなく、逆にうまくいかなかった場合のダウンサイドのリスクを考慮して、その際に起きうる損失が許容できるかという基準でコミットメントが行われる。(許容可能な損失の原則)
これらの考え方を用いて、結果が全く不確実であっても、「何ができるか」についての具体的なアイデアを生み出し、行動に移すことが可能になる。この際、熟達した起業家は、コミットメントを提供してくれる可能性のある、あらゆるステークホルダーとパートナーシップを模索する傾向がある。(クレイジーキルトの原則)
相互作用の結果として、パートナーのコミットメントが獲得されると、起業家の活動には、参画したパートナーがもたらす「新たな手段」が加わるため、プロセスの出発点であった「手持ちの手段(資源)」が拡張され、もう一度パートナーと共に「何かできるか」を問うことになる。このように行動の結果として構築されるパートナーシップを組み込みながら、エフェクチュエーションのプロセスは拡大しつつ何度も繰り返されることになる。
熟達した起業家は、予期せずしてパートナーからもたらされた手段や目的を受け入れ、それを自らの「手持ちの手段」の拡張機会としてポジティブにリフレーミングする傾向がある。失敗や思った通りに進まない現実も学習機会と捉え、新たな行動を生み出すために活用しようとする。(レモネードの原則)
エフェクチュエーションのプロセスでは、未来の結果に関する「予測」を必要としない。結果が予測できない高い不確実性の中でも、起業家は自らがコントロール可能な活動に集中し、このプロセスを回し続けることで、最初に思いもしなかったような新しい事業の可能性に至る。(飛行機のパイロットの原則)