デジタルワールドの拡大
インターネットが登場したことで、今までは「リアルワールド」だけだったところへ「デジタルワールド」というもう1つの活動圏が生まれた。デジタルテクノロジーの進歩に伴って、この2つの世界の関係性は劇的に変化しつつあり、さらにもう1つの世界「メタバース」という仮想世界が加わろうとしている。
これらの変化は大きく4期に分けられる。
①リアルワールド → デジタルワールド
人々がPCを使うようになると「手紙」は「eメール」へ、「ニュース」は「ポータルサイト」へ、「実店舗」は「eコマース」へと選択肢が広がった。
②デジタルワールド → デジタルワールド
検索エンジン、ブログ、SNS、CGM、YouTube、オンラインゲームという具合に、デジタルワールドで経済が拡張した。
③デジタルワールド → リアルワールド
Uber Eatsが飲食店のあり方を変え、Airbnbが宿泊施設のあり方を変え、Zoomが働き方を変えるなど、デジタルワールドがリアルワールドに影響を与えるようになった。
④デジタルワールド → メタバース
メタバース、仮想通貨、DAO、ジェネレーティブAIなど、もはやリアルワールドの関与は薄く、ほとんどすべてがデジタルな仮想空間で完結する世界である。経済活動から文化活動、モノづくり、自己のアイデンティティに至るまで、あらゆることが「デジタルワールドで行われるもの」となっていく。フィジカルな世界と並行しながら、デジタルなもの「それ自体」が価値を持ち、取引され、流通する、そんな完全なデジタルエコシステムが、メタバースという空間で形成されていく。これが現在、大きく育ちつつあるweb3が向かう未来である。
これから起ころうとしているのは、デジタルネイティブなもの自体が「価値」を帯びる世界が形成されるという「価値革命」といえる。デジタルテクノロジーが一層進化することにより、企業、社会、国家、通貨、資本主義など既存システムが生み出し、確立してきた価値が根本から変容していく、その過渡期に私たちは立っている。
様々な価値をデジタルデータに置き換える世界
デジタルワールドの拡大を「デジタライゼーション」と呼ぶことにする。デジタルテクノロジーの歴史とは「フィジカルなものをデジタルに置き換えること」に始まり、ついには「デジタルからデジタルを生むこと」へと向かおうとしているデジタライゼーションの歴史である。
デジタライゼーションの現在地は、web2からweb3、そのまたネクストへの転換期である。ここで主に起こっているのが「価値」のデジタル化である。
web2で形成された中央集権的構造、GoogleやAppleなどのビッグテックがユーザーを囲い込む寡占状態に対する反発として、デジタルワールドの「非中央集権化」「分散化」を目指すムーブメントが起こった。これがweb3と称されるものの原初だが、もはや単なる「web2への対抗策」の域を超えている。
世界初の仮想通貨「ビットコイン」の誕生は「ブロックチェーン」技術という恩恵をもたらした。さらに「イーサリアム」と呼ばれるオープンプラットフォームができたことで、様々な価値を「トークン」と呼ばれるデジタルデータに置き換えることができるようになった。
web3の経済圏では、アート、知的財産、学歴、職歴などの社会的な評価、「ファンであること」の証明やメンバーシップの印となる会員証、住民票、アイデンティティ、SNSのフォロワーの影響力、ゲームやメタバースで使われる道具や洋服など、「フィジカル性」を伴わないものまで、トークナイゼーションを通じて価値化されている。このことから、web3の技術基盤であるブロックチェーンは、従来のインターネットでは「情報」が行き交っていたのとは対比的に「インターネット・オブ・バリュー(価値が行き交うネットワーク)」とも呼ばれている。
こうした従来の金融に限らない「価値」が流通するweb3以降の経済圏は、今までの金融ネットワークのオルタナティブとなっていくはずである。その流れにAIテクノロジーの進化も加わることで、真にデジタルネイティブなものが当たり前のように世の中に存在するようになるだろう。