事前に介護の知識が必要である
ビジネスケアラーとは「働きながら介護をする人」「仕事と介護を両立している人」という意味である。現在進行形のビジネスケアラーは既に45〜49歳で20人に1人、50〜54歳で8人に1人。経産省は、2030年には家族介護者が833万人にのぼり、ビジネスケアラーが318万人になると予測を発表している。
ビジネスケアラーの中心となる現代の40〜50代は、過去の40〜50代とは異なり、未婚率も高く、兄弟姉妹が少ないという点も無視できない。そのため、介護が始まった時、昔よりも介護の負担を親族で分散しにくいという特徴がある。さらに専業主婦が減っていることも、この問題に拍車をかけている。
これからは、仕事をしながらの介護を、とにかく昔よりもずっと少ない人数で担当する時代なのである。
一方、ビジネスケアラー予備軍の人にも課題がある。それは仕事との両立において「育児も介護も同じようなもの」という誤解が多いことである。育児と介護は正反対と言えるほど異なっている。介護の場合は一般的に次の3つの特徴がある。
- 情報が足りない
- 考える時間が足りない
- 職場に相談できるネットワークがない
加えて、育児は辛いながらも子供の成長からモチベーションを得ていくことが可能だが、介護はそこからモチベーションを得るのは難しい。
介護は、知識があれば負担を減らすことが可能である。自分の親に介護が必要になったとして、それから介護について検索しても、手遅れだったり、本当に必要な知識に辿り着けなかったりする。だからこそ、介護が始まる前から、介護の知識を学ぶ必要がある。
ビジネスケアラーの新常識
①介護で仕事を辞めたら再就職できず、再就職できても年収は男性4割、女性5割減少
介護を理由に仕事を辞めるなら、まず1年以上収入が途絶え、再就職できたとしても今の半分程度の年収になっても生きていけるだけの貯金が必要である。介護生活は少なくとも10年は続くことを想定しておく必要がある。
②介護の負担額は平均月7〜8万円、想定している介護期間は平均14年
介護期間の平均14年1ヶ月を考えると、介護のランニングコストは合計で約1186〜1355万円となる。両親同時に介護が必要なるケースも多数あり、その場合は2000万円以上の準備が必要になる。介護を必要とせずに亡くなる人は、全体の5%程度に過ぎない。誰もが何らかの介護を受けながら亡くなっていくと想定しておくべきである。
③介護を理由に仕事を辞めたとしても、介護の負担は逆に増える
介護で仕事を辞めてしまった場合、自分の収入が途絶える。介護にお金がかかるのに自分の生活費でさえままならなくなる。金銭的にも肉体的にも追い詰められた結果として、精神的にも厳しくなる。
④「介護離職は親孝行」ではない、「ビジネスケアラーは親不孝」でもない
親孝行をするために介護に専念したいと感じる人も多いが、介護をどこまで具体的に想像できているか。少なくとも介護は10年続くことを考え、経済的にも見積もっておく必要がある。
⑤離職前に「誰にも相談しなかった」が約半数、離職する人は介護に関する知識不足
介護離職の理由とされていることは、介護サービスに関する具体的な知識があれば、かなりの程度、解決できてしまう。介護は個別性が高く、ビジネスケアラーとしてうまく仕事と介護を両立させるには介護の専門知識を持っている人によるアドバイスが必要である。
⑥仕事がうまくいっていない時に「親の介護」を言い訳に離職するのは危険
⑦親と同居で「離婚」「認知症」のリスク増。同居すると受けられない介護サービスも
介護が必要になった親を自宅に迎え入れて同居した場合は、介護離婚のリスクはかなり高くなる。特に、同居している健康な家族がいる場合、生活援助サービスが、介護保険では使えなくなることに注意が必要である。こうしたサービスが使えなくなるだけでも介護の負担は大きく上がる。
さらに高齢者にとって、住み慣れた環境を離れることは、認知症のリスクを高めてしまう事実も理解しておく必要がある。
⑧介護で虐待しやすいのは息子か夫で、同居するなど常時接触のパターンが多い
介護をめぐる虐待において、家族による虐待は、介護職によるものの22倍も多く発生している。
⑨身体介護をしなければ仕事と両立できる可能性が高まる
介護を理由に退職する人とそうでない人の決定的な分かれ道となっているのは、身体介護(入浴介助、排泄介助、食事介助)と家事を自分で担っているか、介護サービス事業者に頼っているかである。大事なのは、負担の大きい身体介護や家事はできるだけ介護のプロに任せることである。
⑩介護は1人で抱え込まず、チームでやるのが原則
ビジネスケアラーとして仕事と介護の両立に成功している人は、仕事で培った能力を用いて、上手に介護の負担を分散している。