「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか

発刊
2023年6月17日
ページ数
264ページ
読了目安
304分
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若者の読書の実態
「若者の本離れが進んでいる」というのは間違っている。実際の読書調査のデータを紹介し、昔に比べて本を読むことが多くなった若者の実態を解説している一冊。

若者はどのぐらい本を読んでいるのかを示しながら、彼らは何を読んでいるのか、どういった作品が若者に人気なのかが分析されています。Z世代にウケるコンテンツとはどのようなものなのか、というマーケティングの参考にもなります。

「子供の本離れ」は進んでいない

1980年〜1990年代までにかけてはいわゆる「本離れ」が進み、1990年代末に平均読書冊数と不読率は市場最悪の数字となる。しかし、2000年代にはどちらもV字回復を遂げ、2010年代になると平均読書冊数は小学生は史上最高を更新、中学生は微増傾向を続け、高校生はほぼ横ばいだが、過去と比べて「本離れが進行している」とは言えない。

 

2000年代にV字回復したのは、1990年代末から、官民連携をした読書推進の動きが本格化したためである。2001年、OECD加盟国の15歳を対象とした学力到達度調査PISAの第1回が発表され、日本の子供は「読解力」が参加国中8位となり、55%が「趣味で読書することはない」と回答、参加国平均の32%を上回っていたことが明らかになった。これにメディアや教育界が激しく反応し、ここから地方公共団体が、小中高校で10分間程度自由に児童・生徒が本を読むという「朝の読書」(朝読)運動や、赤ちゃんとその保護者に絵本を手渡しするという「ブックスタート」を読書推進計画に採用することが増えていった。

朝読の実施校数は2000年代を通じて伸び、2010年代以降は横ばいから微減傾向。実施率は、全国の小学校の80%、中学校の82%、高校の45%となっている。つまり、小中学生の8割は学校で半ば強制的に本を読む時間がある。従って、1990年代までと比べて、この年代の不読率は激減した。

2022年の書籍の不読率は小4〜6で6.4%、中1〜3で18.6%、高1〜3で51.1%。1997年の不読率が小学生15.0%、中学生55.3%、高校生69.8%だったのに比べれば、今の中高生の方が書籍を読むようになっているのは間違いない。

 

中高生はどんな内容の本を読んでいるのか

10代の脳の特徴は、情動の揺れ動きが激しく、衝動性が激しい。このことを踏まえて中高生が読んでいる本を眺めていくと、以下のようなニーズを満たしていることが推察できる。

 

①正負両方に感情を揺さぶる

泣ける、こわい、ときめく、笑える、切ない、スカッとするといった感情に激しく訴えかける要素が顕著な本が好まれている。それもアップダウンがあった方が、より好まれる。物語終盤にエモさが爆発する作品が良く、地味で感情を動かす度合いが少ない話はうけない。

 

②思春期の自意識、反抗心、本音に訴える

子供・若者が自立に向かって保護者や教育者の考えや教えを相対化し、他者の視線を気にするようになり、親しい人間にもなかなか言えないことを抱えるようになる時期にふさわしい内容が好まれている。大人が子供に説教するようなきれいごと、正論、押し付けがましいだけの話、「いい子」なだけの主人公は好まれない。

 

③読む前から得られる感情がわかり、読みやすい

語彙が平易で、描写が少なく、設定やストーリーラインがシンプルな方が望ましい。また、泣ける、エグい、キュンとするといった「読後感が読む前からわかる」ようなタイトルや設定、あらすじ、カバーその他のパッケージングが望ましい。

 

逆に大人は好きでも中高生はそれほど好まないものには、以下のようなものがある。

  • 中心人物の内面・外見が社会人
  • 固有名詞やパロディが20代以上向け
  • 青年マンガ的題材(水商売・ヤクザ・性・お仕事ものなど)
  • 社会派
  • 「本好き」向け、本と関わる仕事の話
  • 文体、描写が特徴的

 

従って、例えば村上春樹や森見登美彦、朝井リョウといった人気作家の作品はほとんど学校読書調査では入ってこない。「作家読み」されているとみなせるのは、2010年代後半以降では住野よる、東野圭吾、知念実希人など片手で数えられるほどしかいない。また、フィクションと比べると新書や実用書、ノンフィクションはかなり少ない。

 

中高生に人気となる作品の型

こうしたニーズに対応して、中高生に人気の「型」が存在する。結構な割合の作品は、次のいずれかの要素を含んでいる。

 

①自意識 + どんでん返し + 真情爆発

主人公が他者からの視線や評価を気にする「自意識」と、作劇上の「どんでん返し」、「真情(秘めたる想い、溜めに溜めた感情)が終盤で爆発」することがセットになっている。

 

②子供が大人に勝つ

中高生が理解・共感しやすい若者を主人公にして、友情や恋愛などを描こうとすると、敵役は大抵同年代の悪いやつ・嫌なやつか、大人になる。

 

③デスゲーム、サバイバル、脱出ゲーム

子供が大人から自立していく過程で抱く不満や反発、大人たちが言うきれいごとを嫌い、「世の中って本当はこうなんだ」と若者が感じていることにシンクロする内容だからこそ刺さる。

 

④「余命もの(死亡確定ロマンス)」、「死者との再会・交流」

主人公と近い人間の死が絡んで泣かせる話であり、デスゲームやサバイバルものとは違って、暴力描写やエグい展開、恐怖は扱われない。