ソーシャル・イントラプレナーとは
ソーシャル・イントラプレナーとは「社会課題を解決する社内起業家」と定義され、企業が持つリソースや社会的影響力を活用し、社会変化を生み出す、新しい時代の生き方である。
ソーシャル・イントラプレナーは、一般的な会社員のように、上司や先輩からの指示を待ち、少しずつ仕事を覚えるのではなく、何をやるのかを自ら考え、やるべきことを自分自身で決定し、行動する必要がある。メンバー集めからスケジュール管理、予算管理やネットワーク形成など、自ら主体的に考え、動かなければならない。
一般のアントレプレナー(起業家)と比較した時、社内リソースを活用できることがイントラプレナーの大きなメリットの1つである。エンジニア、デザイナー、マーケターといったプロフェショナルから、企業特有のものづくりのノウハウまで、プロジェクトを推進させるためのリソースとして活用することが可能である。さらに企業のブランド力も生かすことで、初対面の方に協力をお願いしやすいというメリットもある。また、企業が既に持っているネットワークも活用できる。
一方、ソーシャル・イントラプレナーのデメリットは、ベンチャーのようなスピード感をつくり出すのが難しいこと。何かを発注するには関連部署への確認や発注作業の事務手続きに数週間は必要であるし、金額が大きくなると稟議も必要となる。企業特有の作法や暗黙のルールのようなものがあり、そこに対してはフラストレーションを感じることもある。
ソーシャル・イントラプレナーは、社会課題解決だけでなく、会社の価値を押し上げることができる存在である。SDGsやESG投資が注目される中で、社会課題へのチャレンジは企業価値を上げるためのチャレンジになる。そのため、ソーシャル・イントラプレナーは、社会課題へのアプローチはもちろん、自分が所属する企業に対してもプラスとなる価値や効果を常に考え続ける必要がある。
ソーシャル・イントラプレナーの存在は、社内の人々が「自分もできるかもしれない」「チャレンジしてみたい」といった気持ちになるきっかけになり得る。多くの人たちのチャレンジは、会社を良い方向に動かし、社会課題解決のための大きな一歩になる。
成果が出るのに時間のかかる社会課題の解決に向けたチャレンジこそ、比較的体力のある企業だからできることであり、ソーシャル・イントラプレナーとSDGsは良いペアリングである。
熱量を共有し、チャンスをつかむ
オンテナは、振動と光によって音の特徴を体で感じるアクセサリー型の装置である。髪の毛や耳たぶ、襟元や袖口に付けて使う。音の大きさを振動と光の強さにリアルタイムに変換し、リズムやパターン、大きさといった音の特徴をユーザーに伝達できる。さらに、コントローラーを使うと複数のオンテナを同時に制御でき、ユーザーごとに任意にリズムを伝えることも可能である。
富士通でオンテナのプロジェクトを立ち上げて最初にぶつかった壁は「できないことが当たり前」だと思い込んでいる人が多過ぎることだった。富士通で働き始めて、会社のルールやシステムに合わせるのが当然だと思っている人が多かった。
その一方で、富士通にも新しいことにチャレンジしたいという熱い思いを持った人がたくさんいることも事実。オンテナを商品化できたのは、プロジェクトの応援団となり、困った時に助けてくれる仲間が各部署にできたからである。
大事なのは、同じ思いを持った仲間を増やしていくこと。そのためには、まず自分の熱意を相手に真摯に伝えて「熱量を共有する」ことが必要である。熱量を共有するためのポイントは「何が自分の熱量の源であるのか」を真摯に相手に示すことである。
このプロジェクトは誰を幸せにするのか、誰を笑顔にするのか。協力してくれる仲間を増やすためには、ゴールを体感してもらうことが必要である。そのために、動画や写真といったビジュアルを活用する。
オンテナを開発しようと思ったきっかけは、大学1年生の学園祭でろう者と出会ったことだった。音の聞こえない世界を知り、彼らに音を届けたいと思うようになり、ろう者と共に音を感じるためのユーザーインターフェースデザインの研究を始めた。
これまで常に「熱量を共有」することで、チャンスをつかんできた。最初につかんだチャンスは、大学院2年生の時「未踏IT人材発掘・育成事業」で採択されたこと。面接審査では、ろう者との取り組みやオンテナのプロトタイプの現状、実際のろう者のフィードバックや使用している様子を審査員に示した。そして、熱量を持って「世界中のろう者にオンテナを届けたい」という思いを伝えた。
次につかんだチャンスは、富士通への入社。当時の富士通の阪井常務と小林デザインセンター長に対して「世界中のろう者にオンテナを届けたい」という思いを熱量を持ってプレゼンした。結果、富士通に入社し、プロジェクトをスタートさせることができた。